第二十一話 ~入学前~ 成功の結果

 「魔法としては成功です。」

ギリアムがやっとラランに返事ができたのはしばらく経ってからだった。

「できたんだ・・・あ・・でも虫が・・・。」

魔法が出来たからなのか、虫を死なせてしまったからなのか、自分が思っていたことと違った結果だったからなのか・・・どうしようもなく立ち尽くすラランの目から大きな涙が溢れだした。

ギリアムはそっと背中をさすり、そっと静かに声をかける。

「ララン様、よく出来ました。・・・今日はここまでにしましょう。」

ラランは涙を拭って頷いた。

もう夕方になり、カラスがどこかでカーカーと鳴いている。

部屋までラランを送ると口数少なく蚊の鳴くような声で、

「ありがとうございました、さようなら」

とラランは挨拶をした。

「はい、ララン様、今日はよく頑張りましたね。では・・・また次回。」

といつも通り挨拶をするとその日の講義はそこで終わりになった。

ドロシー達がいつもなら見送ってくれるが、今日は自分が出かけるように言ったので誰もいない。

ギリアムは庭に戻ると、今日起こったことをふり返る為にラランと講義をしたベンチに腰掛けた。

 

 ラランの魔法はとうとう成功した。

しかし、それは光ではなく闇の魔法・・・でだ。

光の魔法が成功しないのは属性が合っていないとは思っていたが、こんな結果になるとははっきり言って想定外だった。

一族で闇の魔法の使い手など聞いたこともないし、認められる訳がない。

光こそ一族の誇りであり、他の属性の魔法などあってはならないことだった。

「・・・どう報告するべきか・・・・。」

ラランの父親であるトーマスにどう報告するべきか、ラランの力は何なのか考えれば考えるほど答えは見つからず考えに耽るばかりだった。

そうしてどれくらい経っただろう。

いつの間にか帰ってきたドロシーが夕暮れの闇の中にいるギリアムを見つけて悲鳴を上げるまで、ギリアムは気が付かなかった。

「ギリアム様!何をなさってるんですか!わ、私の心臓が止まってしまいますよ!」

ドロシーは腰を抜かさんばかりに驚いたようだった。

「・・・これは失礼、驚かせるつもりはなかったんですが。」

ギリアムは立ち上がって軽く一礼をする。

「はー・・・驚きました。ほんとに・・・やめてくださいよ・・・

ララン様は?今日のレッスンはもうおしまいですか?」

ドロシーは胸を撫でおろすと、ラランの様子を聞いた。

「はい、今日は色々なことに挑戦されて疲れたようで早めに切り上げさせてもらいました。」

「そうでございますか、ララン様は頑張り屋さんですからねぇ。」

「そうですね、よく続けてらっしゃいます。トーマスは部屋におりますか?」

「旦那様ですか?あともう少しで診療所から戻られると思いますので、お待ちになりますか?こんな所で待つなんてやめて下さいまし。心臓に悪い・・。」

「そうさせてもらえると有難いですな。」


ギリアムはドロシーに屋敷に招かれ、トーマスが診療所から戻るまで待つことにした。

通されたいつもの食堂の柱時計が今日はやけに遅く感じた。






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