第二十話 ~入学前~ 発現する魔法

 この世界に存在する魔法は七種類。

五行に光と闇を足した光・闇・火・氷・木・金・土。

存在する魔法をラランは一つずつギリアムと一緒に試していった。

エーベルス一族は光の魔法の使い手なので、本来なら複数魔法を試してみる必要はない。

うまく発現しない魔法の原因を探るべくギリアムの提案で一つずつ試していたのだが、光を除く五種類の魔法を試してみたが結果はいずれも失敗。

「ぜぇんぶ・・・だめだ~」

流石にラランも疲れたようで、フラフラとベンチに座り込む。

集中が切れたのだろう。足をブラブラさせてベンチに背中をつけて空をにらむ。

こんな姿を見られたらドロシーに怒鳴られる。

ギリアムは相変わらずじっと考えて腕を組み、考え事をしている。


・・・残る魔法は『闇』のみになった。光のエーベルス一族に対を成す闇の魔法をできるはずがない。しかし、ギリアムは考え込んでラランに問いかける。

「ララン様・・・残りは一つですが・・・どうしますか?

やってみますか・・・?」

「はぁ・・・ここまで見事にできないんだから、最後までやりきるよ。」

ラランは諦めたように笑った。

ギリアムがその様子を見て、同じようにフっと笑うと闇の魔法の言葉をラランに教える。実際の動作を見せてやりたかったが、ギリアム自身に合わない魔法であるため、言葉を所作を伝えることしかできなかった。

ラランは疲れた様子だったが、ベンチからひょいと立ち上がり息を整える。


 息を吸って、静かに目を閉じる。

光の魔法と同様に手のひらに力を集めるように集中する。

今度も力が身体を巡るのを感じ、手のひらに力を送る。

ラランの手のひらに小さな光が集まり出す。

闇の初期魔法のひとつ

『影のうしろ』

魔法発動の合図である魔法の名前を小さく唱える。

唱えると今度は力が手のひらを伝わって外に出ていくのをしっかりと感じることができた。

光が消えないように集中を切らささないように力をつなげる。

そっとラランが目を開けると自分の手のひらに小さな光が一つ生まれて輝いているのを見た。

ただし、光の魔法のように輝くものではない、深い紫をした黒い光だった。

産まれた真っ黒で中が見えない小さな穴のような闇の光玉はゆっくりとラランの手を離れ、目の前の雑草の小さな羽虫に向かってふよふよと飛んで行った。


バシンッ!


光の黒い玉は羽虫に当たると手を叩くような乾いた音がし、弾けて消えた。

焦げてチリヂリになった羽虫が真っ黒になってヒラヒラと花びらのように地面に落ちた。


「・・・・」

言葉なく立ち尽くすララン。

疲労なのか結果への驚きなのか・・・魔法ができて喜ぶべきなのか、羽虫とはいえ自分のせいで命が一つ消えたことへの罪悪感なのか、この気持ちをどう表現することが正しいのかわからない。

「・・・ギリアム、今の・・・何かな・・・?」

言葉を振り尋ねるラランに、ギリアムは今見た光景の分析とラランに答える言葉を探して深く眉間にしわを寄せて考える。

返事のないギリアムにラランは答えを強い口調で求める。

「ねぇ!ギリアム!今のは何!?」

「ララン様・・・これは・・・・」


立ち尽くす二人の後ろから急に大きな風が吹き、羽虫の死骸を巻き上げる。



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