第十九話 ~入学前~ いつもと違う講義
七月夏休み前最後の魔法講義の日、この日はいつもと違っていた。
外は暑くセミの声がわずかに鳴き始め、夏が来ていることを実感する。
この日も簡単な光の魔法『蛍』の魔法を習得すべく、ギリアムとラランは庭に出ていた。
いつもチラチラと様子を伺いながら覗いてくるルルンとカミールは今日はいない。
ギリアムがドロシーに頼んで二人を連れ出してくれるように頼み込んだのだった。
一方ラランは、
(早く終わらないかな・・)
ぼんやりと今日もやる気を失っていた。
庭の瓶に目をやると、カミールが遊んでそのままにしたのであろうアヒルのおもちゃが浮いているのを見つけた。
ラランは今日も講義が終わることだけを考えて惰性で魔法の練習をしようとする。
そんなやる気のないラランに気付いたギリアムが声を掛ける。
「ララン様、いつもと同じではつまらないでしょう。
今日はこちらをやってみましょうか。」
ギリアムは数冊本を抱えていたものを休憩用のベンチに置いて一冊
『~氷~ 実技基礎』の本を手に取った。
ラランはギリアムのやろうとしていることがわからず固まった。
「今日、ララン様にやっていただくのは別の魔法です。
これは氷の魔法です。私も専門外ですので上手くできるか・・・」
ギリアムはそう言うと静かに目を閉じて大きく息を吸って、両手をすくうような動作をする。ラランとギリアムの周りが一瞬冷たくなる。
ギリアムの手のひらに小さな氷の結晶がコロコロと現れた。
ギリアムはそっと目を開けると
「ふう、なんとかうまくできましたな。」
そう言ってラランに氷を手渡した。
「わぁ!冷たい!ギリアム!すごい!」
ラランはぱっと目を輝かせて喜んだ。
ラランが興味を持ったことにギリアムはふっと笑うと、
「ララン様、氷の魔法をやってみましょう。
光の魔法と最初の言葉は違いますが基本の動作とやり方はすべて同じです。
いかがですか?」
ギリアムの言葉にうんうんと大きくラランは頷くと、ギリアムから氷の魔法に必要な言葉を教えてもらい動作に入る。
結果・・・失敗。
光の魔法の時と同じように、魔法が発現しようとして消えてしまった。
「はぁ・・・・」
ラランはがっくりと肩を落とす。できる訳ないと思っていたが、やはりできないと気分が滅入る。
しかし、ギリアムは考えた様子で次の本を手に取る。
「次はこちらを試してみましょう。」
次にとり出した本は『火』。ラランは言われるがままに次の魔法に取り掛かる。
やはり失敗。
恐る恐るギリアムの方をゆっくり振り向くと、ギリアムは難しい顔をして考え込んでいる。
「ご、ごめんなさい!やっぱりできなくて・・・」
出来ないことを謝ろうとすると、ギリアムは次の本をすっとラランに差し出す。
「ララン様、まだ続けられますか?」
責めることもなく、叱ることもない。
「は、はい・・」
こうして、ギリアムに言われるままラランはこの世界に存在している魔法氷・火・木・金・土・・・を順に試していくことになった。
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