第十八話 ~入学前~ 考えられる可能性

 ラランの家に魔法の家庭教師として招かれているギリアム・エーベルスもまた、ラランの魔法の才能が開花しないことに疑問を持っていた。

ラランの講義がある前日、ギリアムは自宅の書斎にある机の前で腕を組んで考えに耽っていた。

実技の講義を始めて一ヵ月以上経過するのに、ラランの魔法技術が全く進まない状況を歯がゆく思っていた。魔法の力を秘めている指標として髪の色・証がはっきりと体現してるにも関わらず魔法が使えないという事例はあまり経験してこなかった。

魔法の力を秘めている者は力の制御ができず、暴発・暴走することがほとんどだ。

暴発・暴走を制御する指導は今まで散々あったが、力が出てこない事例はあまりない。

魔法が使えない理由として考えられる可能性は大きく三つ。

 一つ目は、ララン自身が魔法を使うことを望んでいないということだ。心のどこかで魔法を使うことを拒否しているため魔法が発現する寸前で止めてしまっているのではないだろうか?

しかし、これは考えにくい。ララン自身が魔法を学ぶことを楽しみにしており、あの座学・実技初期の熱心さを思い出せば魔法を使うことを望んでいないというのは考えにくいだろう。

 二つ目、ラランの魔力が足りない可能性。これも可能性としてはないに等しい。

ララン自身が力の流れを感じているからだ。力の足りない者は自身の魔法の力を感じることすらできないからだ。

 三つ目、ラランが自身に合わない魔法を使おうとしている場合だ。

可能性としてはこれが最もあり得るのではないかと思われた。

エーベルスは光の魔法の一族だ。使う魔法も当然、光の魔法になってくるがラランには光の魔法が合っていないのではないか、ギリアムはそんな考えに傾いていた。

実際、自身が教壇に立っている時、様々な属性の魔法を使う生徒たちを見て来た。

違う属性に憧れて、別の魔法を使ってみようとする者も当然出てくる。

自分に合わない魔法を使おうとすると当然上手くいかない。その上手くいかない現象にラランの今がとても似ている気がしたのだ。

幼い間は両親の血が濃く働くため、血液も魔力も安定しないことが多い。

通常は七歳程度までに血も魔力も落ち着ていくと言われているが、全ての子どもがそうとは限らないだろう。

ラランに魔力がないのか、それともララン自身も知らない、あの家の者が誰も考えていない他の可能性が隠れているのか・・・。

試してみる価値はあるのかもしれない。

ギリアムは椅子から立ち上がり、膨大な本棚の前に立った。

歩き回りお目当ての本を数冊取り出すと、机の上で明日の講義の準備をするのだった。


 

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