第十七話 ~入学前~ 広がり出す黒

 ラランの母マリアは医者である。

敷地内の一角に小さな診療所を開き、そこで日々病気やケガの治療に当たっている。

夫のトーマスとは違い、魔法は全く使うことはできないがそれに負い目を感じたり、劣等感を持つことはなかった。

お互い手段は違えど夫は魔法で自分は医学で人を救う。誰かを助けることは同じだと考えているからだ。

普段は様々な患者を診る。様々な病気、ケガ、不定愁訴・・・。

それぞれに合わせて処置をし、薬を処方し、生活での工夫や生活指導をする。

魔法や呪いの類の疾患は夫のトーマスの分野だが外科、内科、自分にわかりそうな疾患や症例はなんでも診察するようにしていた。

しかし、先日見たラランの症例は診察したことがない初めての事だった。

街に買い物に行ってから半月。初めて見つけたラランの生え際の黒色の箇所は証の周辺からコイン一個分の大きさで輪のように髪の根元を染めていた。今ははっきりと髪の根元の黒い範囲が広がってきている。

生来銀髪だったラランから黒髪が少しずつ生えてきている。そしてその範囲が徐々に広がってきているのだ。

髪が長いことと生え際からわずかに黒いだけで、幸いララン自身が気付いてはいな。マリアは仕事、家事、育児の合間に文献・専門書を調べ、友人・大学の恩師などに手紙を書いたりしてラランと同じ症例を探し始めていた。

病気の合併症・心因的な事情で髪が抜けてしまったり、脱色してしまうことは自分が診察した中でも経験がある。

自身で髪を染める・・・という可能性もあるが、染めるとすれば根元だけ・・・というのはおかしい。

ラランが自分でやったというのも考えらえなくもないが、ラランの性格なら一気に染めるだろう。親に隠れて少しずつ髪を染めて様子をうかがう・・・という慎重さはあの子にはない。

「魔法が上手くいかなくて・・・魔法の使い手として自分が見られることが嫌で自分で染めようとしているのかしら・・・。」

マリアは目をつぶりラランの最近の様子を思い出す。

ギリアムとの講義はやる気はないが、他は特段変わった様子はないように感じる。

だとすればなおのこと、ラランの広がり始めた黒の原因を探ろうと決意した。

そして、自分の分野で原因がつかめないとしたら、これは夫の分野の何かなのではないかとトーマスと二人で話をすべく、暦を確認するのだった。




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