第十六話 ~入学前~ 小さな異変

 ラランの魔法が全く進展せず、七月になった。

最早向上心とか、やる気なども全くなくただダラダラと魔法の講義を受けていた。

(このまま魔法では何も得られないんだろうなぁ・・・)とぼんやりと考えていた。

ギリアムはいつもと変わらずラランに接して魔法を教えてくれていた。申し訳ない気もしていたがラランにはどうしてもやる気が出ないままだった。


               *

 七月ある休日の朝、ラランのクラスメイトで大の仲良しである友人ダイアナの誕生日プレゼントを買うべくラランは母と街へ買い物に行く準備をしている時だった。

「母様、早く髪を結んで!」ラランはお出かけ用の水色のワンピースをヒラヒラさせながら母にしがみついてせがんだ。

母が仕事が休みなのも、街に行くのも久しぶりでラランはとても浮かれていた。

ルルンとカミールは父と近くの山にハイキングに行くとのことで、今日は母を独り占めできると思うと余計に心が弾んだ。

「はいはい、ふふふ。はしゃいじゃって・・・さぁこっちに来て頂戴。

結びたくても結べないわ。」

母はそわそわしてぐるぐる動き回るラランに声をかけると、ワンピースに合わせた水色のリボンを二つ手に持って、母の隣に来て椅子に座る。

母はラランの美しい銀髪にそっと櫛を入れながら、

「最初はどのお店に行こうかしらね・・・やっぱり、あの雑貨屋さんかしら・・。

あら・・・何かしら」

母が櫛で髪を梳く手を止める。

ラランの証がある左の首筋に母が目をやる。

ラランの首筋にはぼんやりと光の魔法の使い手である証があったのだが、それが赤味を帯びてはっきりと浮き上がってきている。

加えて、証周辺の生え際から黒い髪が生えてこようとしていた。

「・・・ララン、貴女また隠れて花火でもやった?」

ラランは毎年夏に花火をやることをとても楽しみにしていた。

待ちきれずに勝手に倉庫から古い花火を持ち出して、夕方にこっそりルルンとカミールを巻き込んで花火をすることがあった。導火線が短い花火に無理やり火をつけて前髪を焦がして大目玉を食らったことがある。

母はまずそれを疑ったのだ。

「こ、今年はまだやってないよ!な・・・何でわかるの!?」

ラランはギクリと肩をびくつかせて母の方をゆっくりと振り返る。

「・・・『まだ』ってことはやろうとしてたのね・・・全く・・・

それは一旦置いといて・・・どこか具合の悪いところはないの?

この首筋の辺り・・・おかしいところはない?」

首筋の証と生え際の黒い産毛をまじまじと見ながら母はラランの身体をさすって、

おかしいころを探す。

医者であり母である勘に何か引っかかる気がする。

当事者のラランは呑気なもので、

「おかしいところ?え~と・・・特にないけど・・あ、この間ふくらはぎを蚊に刺されたよ!ここ!ねぇ母様、それより早く髪結んでくれる?」

ラランのとぼけた答えに気が抜けるが、

「そう・・・ならいいのだけど、何か少しでもおかしければ言ってね?」

母は再び櫛を手に取り、からまないように手早く梳くと、ラランの真ん中から二つ分けて綺麗に三つ編みに結ってリボンを結んだ。

生え際の黒さも、証も綺麗に隠れて何事もなかったようにラランは立ち上がってくるりと母に向き直り、

「ありがとう母様!早く行こう!馬車の音がするもの!」

元気に走って玄関に向かう。

母はラランの背中を見ながら、小さな不安が沸いてくるのを感じた。

ラランの言う通り、馬車の音がする。

気を取り直して、ラランが手招きする玄関へ向かう。

「ララン、折角おしゃれしたんだから走らないの!!」







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