第十四話 ~入学前~ 切れる頑張りの糸
実技を始めて一ヶ月、六月に入って二回目の講義。
相変わらずラランは魔法が進まず、魔法が進歩することはなかった。
すっかり元気を無くしたラランはやる気なく練習を続けていた。
もうできない日々が続きすぎてラランは別な運動でもした方がいいのでは・・・と考えてしまうことがあった。
あれだけやりたかった魔法がこんなに辛いとは思わなかった。
そしてとうとう、危惧していたことが起こった。
この日も基本の魔法『蛍』をギリアムと一緒にやっている時だった。
ラランは相変わらずできないまま。
そんな時、妹と弟のルルンとカミールが庭の端で叫ぶ。
「わ・・私!できたぁ!」
「ぼくもー!ララン!見てぇ!」
ルルンとカミールの手のひらにそれぞれ小さな光の玉がふわふわと浮かんでいる。
二人はラランにも見て欲しくて走ってこちらに駆け寄る。
嬉しそうな二人の手のひらに小さな小さな光の玉が浮かんでいる。
自分がいつまでたってもできない魔法を座学も基礎知識もなく簡単にやってのけるその様子に、ラランの心の中で張り詰めていた頑張りの糸がぷつんと切れた。
「・・・」
ラランの目にみるみる涙が溢れ、頬を伝う。
洋服の袖で涙を拭うと、見られたくないのかその場にいたたまれなくなったのか、駆け出した。
「ララン様!」
「ララン!」
ルルンとカミールも声をかけた。
ギリアムが声を掛けたが、ラランは振り返ることなく家に戻り部屋に閉じこもってその日は部屋から出てこなかった。
ドロシーが何事かと慌ててラランの部屋に声を掛け続けたがラランが返事をすることはなかった。
追いかけてきたギリアムが事情を説明すると、
ドロシーは
「なんてこと・・・」
と呟くと、ラランの気持ちを察してかそれ以上声を掛けることなく、
「ララン様、お腹が空いたら呼び鈴鳴らしてくださいましね。」
そう優しくドア越しに声を掛けると静かに仕事に戻った。
ギリアムもため息をついて、難しい顔をしてしばらくその場で考え事をすると、
父トーマスのいる仕事場へと向かう。
途中、バツの悪そうな顔をしているルルンとカミールを見つけると、
「お二人ともとてもよくできました。ですが、魔法は順番があるのです。
今日はたまたまうまく行きましたが、次はどうなるかわかりません。
お父様の許可をもらって、私と最初から順番に勉強していきましょう。
守っていただけますか?」
ルルンとカミールは大きく頷いた。
「ありがとうございます。ララン様は疲れてお部屋で休んでおられます。
お二人とも、別な場所で遊んで下さいますか?もちろん、魔法ナシで。」
「・・・わかった。ごめんなさい・・・。」
「ごめんなさい」
自分たちのせいで、講義を中断させてしまったこと、ラランを泣かせてしまったことを自覚しているのだろう。
ギリアムはそっと頭をなでると、事態の報告に父のトーマスの仕事部屋へと足早に向かった。
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