第十二話 ~入学前~ 実技の始まり
五月の第一週目、実技が始まる初日ラランはいつも以上にそわそわしながら放課後を待った。
授業が終わるといつもの倍以上の速さで学校を飛び出し、ドロシーが途中で抜け出したのではと心配になるほど早く帰って来た。
ギリアムがやってくると既にそわそわしながら目を輝かせてラランが出迎え、ギリアムとドロシーは目を合わせて苦笑した。
実技は家具や家屋を破損しないための万が一に備え、屋外で行われることになった。
「それでは、境から本魔法を実際に操作できるように訓練していきましょう。
我々、エーベルスの一族は何の力でしたでしょうか?」
「光よ!」
わかってるくせに!口を尖らせてラランは答える。
「よろしい、ララン様の髪の毛、首筋にある証のとおり、光の力を我々は受け継いでいます。
今日から偉大な光の魔法使い、エーベルスの力を借りて我々もまた偉大な行いを成し遂げていくべく…」
長くなりそうな予感がし、ラランは言葉を遮る。
「はい!わかってます!ギリアム!早く続きをお願いします!」
「そうですね、今日は光の魔法の基礎の基礎、『蛍』です。」
ギリアムの右手をラランの目の前に差し出し、
「蛍よ…」
と呟くと小さな蛍のような光の玉が三つ生まれた。
光の玉はふよふよと三つねじれるようにラランの周りをくるくる飛んでふっと消えた。
ラランは目を輝かせて食い入るように光の玉を見つめた。
自分がこれからこれを習得するのだと思うと自然動植物公園顔がほころぶ。
「これが今日の目標です。基礎中の基礎でありながら、道しるべにも、家の明かりとしても、目眩ましにもなります。汎用性が高くかつ、使う力もわずかで済むため、これなくして光の魔法は語れないでしょう。この蛍と言う魔法の利便性を語るとすれば、昔、私がまだ教壇に立っていた頃突然授業をしているときに…」
「ギリアム!!話しはいいから!」
じれったくなり、ラランは先を教えてほしいと話の腰を折る。ギリアムの話を聞いていたらこのまま今日も話だけで終わってしまう。
「…コホン、それでは基礎知識で学んだように、まず心を穏やかにして背筋を伸ばし目を閉じます。」
ラランは言われた通りに目を閉じ大きく深呼吸をする。
「慣れてくればこの動作がなくてもよくなりますが、始めの頃は自分の力の流れを感じるために、必ず入れた方がよいでしょう。」
ギリアムはラランの様子を見て頷くと、
「次に利き手…ララン様の場合は右手ですね。
右腕を胸の高さまで上げて、手の平を下に向けましょう。」
ラランは言われたとおりにする。
「よろしい。
それではそのまま自分の中にある魔法の力を感じることは出来ますか?
例えるならそうですね、勢いよく流れる小川のような…身体の中を巡る魔法の流れを探して感じ、それを手のひらに集めるようにしてみてください。」
(魔法が使える!魔法が使える!やったー!)
の気持ちしかないラランにこれは難しかった。
ギリアムの言われた通りにやろうとするが、わくわくした気持ちと早く!の気持ちで魔法の力を探すどころか、気持ちを落ち着けることが上手く出来ない。
すぐに察したギリアムが声をかける。
「ララン様、落ち着いてください!
焦っても良いことはありません。深呼吸して、魔法の力を身体の中から探して手の導くことに集中してください。
お茶の時間に出された茶菓子の中から、好きなものを探す時のララン様の方がよほど集中していますよ!」
(見てたのね…)
ラランは見られていたことに恥ずかしさを覚え、言い返そうとしたが今は集中することにした。
一度目を開け、大きく深呼吸する。
もう一度目を閉じ、ゆっくりと集中して自分の中の力を探る。
暫くすると胸の奥の深く、熱いような冷たいような涌き出るような流れるような感覚を見つけることが出来た。
集中を切らさないように、砂場で水の通り道を作るような気持ちで少しずつ手のひらに力を誘導する。
(きっとこれだわ…)
手の平に力を感じる。力を外に押し出すようにする。
「ララン様!いいですよ!その調子です!」
ギリアムが興奮した様子で横から声をかけてきた。
薄く目を開けてみると、自分の手の平にチラチラと光の粒が集まり出していた。
(やった!出来た!すごい!)
ラランも嬉しくなり、そのまま力をさらに出そうとすると
光はチラチラと集まりだし…バッと弾けるように消えた。
弾けた感じがラランにも伝わり、がっかりしてため息をつく。
「あぁ…消えちゃった…もう少しだったのに…」
ギリアムが静かに優しく声をかける。
「初めにしては大したものです。
出来ない者も多いですから、初日でこれならば上出来ですよ。…光の消え方が少し変わってましたが不安定だからでしょうな。
もう少し集中できればすぐにできるようになるでしょう。では、もう一度。」
「はい!」
ラランは気を取り直して、もう一度始めからやることにした。
(必ず今日、蛍を出して見せる。)そのやる気に満ちていた。
しかし、その日は上手くいくことはなかった。
「・・・今日はここまでにしましょう。」
ギリアムが見かねて声をかけるまでラランは続けた。
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