第九話 ~入学前~ 家庭教師との出会い
ラランの家庭教師は、父の従兄弟であり友人でもある名うての魔法の使い手が派遣されることになった。
帝都の魔法学校で長く教師を務め、それから独立して魔法の研究家・家庭教師として生計を立てているらしい。
あっという間に家庭教師がやってくる日が来て、ラランはとても緊張していた。
家庭教師に魔法を習う時間は午後、ラランが下校した夕方からになった。
魔法に熱心な親なら、学校を休んでも教え込むところだがトーマスはそうしなかった。
まだラランが魔法をどうするか決めかねている以上、学校の勉強を中心にしたいという母の意向もあったからだ。
何はともあれ、ラランは学校にいても落ち着かなかった。
心はソワソワしているのに、時間は全く進まない。
友達と話すのも楽しくてしょうがないのに、今日は友達が怒り出すほど上の空だった。
昼食の時間も一番に食べ終わる勢いで食べ終わるのに、今日は半分以上残してしまい、友達も先生も何事か体調不良かと心配するほどだった。
ラランは必死に笑ってごまかしてやり過ごしたが、それくらい緊張してどうしようもなかった。
午後の授業が終わり、やっと帰宅のチャイムが鳴ると、
「私、今日は予定があるから帰るね!」
「ララン、ちょっと・・・!」
まだ帰りの会話もそこそこにラランは飛ぶように家に向かって走った。
その余りの勢いに友達もクラスメイトも顔を見合わせてラランに何があるのか噂しあった。
「ただいま!」
息を切らしながら、大声で帰ってくると、ドロシーが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、先生がもういらっしゃってますよ。
用意してリビングにいらし・・・」
「わかった!準備してくる!」
ドロシーの言葉もそこそこに、ラランは
洗面所に行って手を洗い、自分の部屋にカバンを放り投げ、母とドロシーが選んでくれたきれい目のワンピースに着替えた。(慌てていたのでボタンを掛け違えていたが)
ラランはリビングに入る前に息を整え、深呼吸をした。
(今日から、私も魔法を勉強するんだ・・・)
心には、ラランが魔法を流暢に使いながら周りの人に感謝されたり、感心されている自分の姿がうっとりと見えるようだった。
そのうっとりを打ち破ったのはドロシーだった。
「ほら、お嬢様!ボタンを掛け違えていらっしゃいますよ!どうぞしっかりしてくださいませ!」
「ふー・・・、はいはい」
ラランは大きくまた深呼吸してドアをノックする。
楽しみで胸がドキドキと高鳴る音がする。
「失礼します・・・」
いつもと同じリビングのドアが重たく感じる。
ドアを開けてテーブルに座っていたのは、中年の上品そうな紳士だった。
一転、ラランは今度は緊張で胸が高まる。忙しい心臓だ。
緊張した面持ちに、ドロシーが先に口を開く。
「こちらが、ラランお嬢様です。」
ラランがペコっと頭を下げると、中年の紳士は立ち上がり静かに微笑んで会釈をした。
「ララン様、初めまして。私は父上の従兄弟にあたります、
ギリアム・エーベルスと申します。今日からよろしくお願いします。」
父よりも少し年上だろうか。大きな体格に髪を短く整え、上品な紺の背広にお洒落なネクタイに美しいエーベルスの家紋のブローチを胸につけている。
教師らしく少し圧のある雰囲気にラランは少し圧倒されたが、魔法を学べる嬉しさと好奇心が勝っていたのだと思う。
「はい!よろしくお願いします!」
自分が思っているより緊張してたが元気な声で返事をした。
ラランの苦難の魔法習得はここから始まったのだ。
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