第三話 ~幼少期~ 待ち人来るまで待つ

 翌日、午後になるとラランは庭に出てダレンを待った。

庭の水がめを午前中に井戸を散々往復して水を溜めた。

じょうろもドロシーに頼み込んで庭師からお古を借りてもらい、二つ用意した。

タオルも着替えも用意した。しかし、どれだけ待ってもダレンは来なかった。

庭は蝶がひらひらと舞い、どこかで鳥が鳴いてる声だけがする。

昨日一緒に水遊びしたのが噓のように静かな午後だった。

ドロシーにきれいに洗濯され、乾いたダレンの訓練着とラランは一緒に庭で待ちぼうけを食らった。

こうしていると、一緒に遊んだことすら本当かどうか怪しく感じてしまう。

ラランは自分の一人遊びだったのではないだろうかという気がしてならない。

太陽が西に傾き、少し涼しい風が吹く時間帯になってきた頃ラランはようやく諦めて訓練着を抱えて自分の部屋に戻った。

(楽しくなくなったのかなぁ・・・それともがんばれなかったのかなぁ)

ラランは昨日のダレンの楽しそうな顔と悲しそうな顔を交互に思い返しては、今日来なかった理由を一生懸命考えた。

美しい夕日が窓から差し込み、ルルンが夕飯に呼びにくるまでラランはぼんやりと過ごした。

(明日はきっと来てくれるよね)

ラランは気を取り直して、明日を待つことにした。

部屋の外は、夕飯のいい香りがした。


 その翌日、ラランは今日こそはの気持ちで目覚めた。

今日もいい天気で暑くなりそうだ。

ダレンは来るだろうか?一日しか会っていないダレンのことをどうしてこんなに待ちわびるのかラランにはわからなかったが、それだけ友達と遊ぶことに飢えていたのだろう。

来るか来ないかわからない友達をソワソワとした様子で朝から家をぶらぶらとした。

忙しい母マリアは医療所に向かう支度をしながら、ラランの様子を見て、

「まるで聖夜の妖精でも待っているようね」と笑った。

ラランは少し恥ずかしくなって、

「訓練着を返したいだけよ、お母さま!」

とむくれ気味に言い返した。

そうだ、訓練着を返さないとまた赤ひげのザンドに厳しくされるかもしれない。

それが可哀そうだからだとラランは思うことにした。


なんとか時間をつぶした午前中がやっと過ぎて、午後になった。

忙しい父母の遅い昼食をラランも一緒に済ませると、庭に出た。

父母は顔を見合わせて、

「そんなにラランは彼を気に入ったのか?」

「さぁ・・・ここのところお友達と遊んでなかったようですし・・・

ずいぶんと気が合ったんだと思います。」

とコソコソと話した。


 ラランは庭に出て、庭をうろうろしながら待った。外は暑くじっとしていると汗がじわじわと出てくる。じょうろに一杯だけ水を汲んで同じようにぐったりしている花に水をかけてやる。一人ではなんだか味気ない。

しばらく待ってもダレンは来ず、暑さにも耐えきれなくなったラランは、家に入ることにした。

その時、二階で洗濯物を取り込んでいたドロシーが大きな声でラランを呼んだ。

「ラランさま~!あちらからダレン様がお越しのようですよ~!」

ラランはドロシーの指さす方に目をやると、赤いまん丸頭の少年がこちらに歩いてくるのが見えた。

家まで来るのを待てず、ラランは家を飛び出した。

ダレンはきっとがんばったのだ、ご褒美にうちに来ることを許してもらえたのだ。

何より自分のことを忘れていないことがラランは嬉しかった。

「ダレン!!」大きく手を振りながら走ると、ダレンもラランに気づき走ってこちらに近づいてくる。

「ララン!」ダレンもラランの名前を呼んで走ってくる。

お互い息を切らしながら顔を見合わせると、ラランは仰天した。

ダレンの左目の周りが真っ青になっている。

「ダレン!どうしたの!?その顔・・・」

信じられないという顔をするラランにダレンは得意げに言う。

「叔父さんからの訓練に逃げずに打ち込みやってたらさ、叔父さんのが当たっちゃって・・・」

どうやら訓練中に負ったケガらしい。

「痛そう・・・ひどい・・・」

「平気だよ!『よく耐えた!今日は遊びに行ってもいいぞ!』ってさ!遊ぼう、ララン!」

ケガをさせてバツが悪くなったのか、忍耐強いダレンに感服したのかわからないが、ケガの勲章の代わりにダレンは遊ぶことを許されたらしかった。

二人はとにかく再会を喜び、ラランの庭めがけて走った。

家からはルルンとカミールも顔を出し、二人を待った。

ラランとダレンは笑いながら、小さな妹弟に水遊びを始める合図を送った。







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