第二話 ~幼少期~ 少年への願い

 二人はすっかり意気投合し、おやつの後もわいわい二人で遊んだ。

庭に再び出て魔法騎士と光の魔法使いごっこをし、ラランの部屋で七人の魔法使いの絵本を眺めたりした。それから二人で絵を描いて見せあった。

ダレンもラランも上手ではなかったが、魔法騎士と魔法使いの絵をお互いに褒めあってお互いの絵に落書きをして笑った。

その後、昼寝から覚めた妹弟も遊びに加わり、更に賑やかさを増した。

そんな中、不意に来客を告げるベルが鳴り、ドロシーが余所行きの声で出迎える。

はっとした顔で、ダレンが気が付くとラランの部屋の隅に隠れた。

今の今まで楽しく遊んでいたダレンの変わりように、ラランは声をかける。

「ダレンどうしたの?」

ダレンは答えない。

妹のルルンとカミールも心配そうにダレンの顔を覗き込む。

しばらくするとラランの部屋の前にドロシーが近づく足音がして、ドアがノックされると、ラランの返事を待たずにドアが開いた。


「ララン様、お友達のお迎えだそうですよ。」

ドロシーの後ろに、赤いひげを生やした怖そうな騎士が立っていた。

騎士はドロシーに目配せをすると、ラランの部屋に足を踏み入れた。

ドロシーも頭を下げて一歩後ろに下がる。

「ドロシー、私いいよと言ってないわ!」

ラランは騎士は怖いので、ドロシーに食ってかかった。

騎士はラランの方を向き、会釈をした。

「ララン・・・・様、ですか?私は、ダレンの叔父のザンドです。甥っ子がお邪魔しているようで申し訳ありません。ダレンはおりますか?」

優しいが厳しい口調でラランに尋ねるザンドと名乗る騎士は、どうやらダレンの叔父らしい。

ラランは決して何も言わないようにしようと思ったが、思わずダレンの方に視線をやってしまう。

ザンドはその視線にいち早く気付くと、ため息を一つついてダレンのいる方へ進んでいく。ダレンの目の前に立ちふさがると、

「こんなところにいたのか、ダレン。どれだけ探したと思ってるんだ。まだ初日だぞまったく・・・さっさと戻って続きをやるぞ。」

そう言って、ダレンの腕を掴むと強引に立たせる。

ダレンはうつむいて何も言わない。

言っても無駄なことがわかっているからだ。

ラランは何か言おうと思ったが、怖くて何も言えなかった。

ザンドはダレンを引きずるようにラランの部屋から連れ出すと、ドロシーとラランに礼を言った。

「いや、こいつの洗濯物がお宅に干してなければわかりませんでした。すっかりお世話になってしまい、本当にありがとうございます。

ほら、ダレンお前も礼を言わないか!」

「・・・・」

ダレンは何も言わない。うつむいたままだ。

「はぁ・・・こいつが騎士になれるよう兄貴に頼まれて訓練を始めたのですが、

どうにも根性がなくて・・・逃げちまいましてね・・・。

まだ初日でこれでは先が思いやられます。

もうご迷惑おかけしないように、きつく言って聞かせますので。」

ドロシーが迷惑だなんてとんでもないと言った。

ザンドがまた礼をして、去ろうとしたとき、

「あの!」

ラランが声をふりしぼった。ザンドとダレンが振り向く。

「ダレンとせっかくお友達になったから・・・・

その・・また遊べますか?」

ザンドはやれやれと言った顔をして、

「ダレンが訓練を頑張ってやったら考えましょう。

ご褒美があれば頑張れるかもしれませんからな。」

そう言ってダレンの頭をポンポンと叩く。

ダレンはじっと動かなかったが、もじもじと両手をこすった。

「では失礼します。」

ザンドとダレンはラランとドロシーに背を向け、歩き出した。

「ダレン、明日もいるよね?明日もあそぼう!がんばって!」

ラランは大きくダレンに声をかけた。

ダレンは振り向かなかったが、掴まれていない手を後ろを向いたまま小さく振った。

ラランはそれを見てダレンと明日も遊べるように、ザンドがダレンに優しくしてくれますようにと願った。

ドロシーはラランの背中を優しくさすり、部屋に戻るように促した。

さっきまでの楽しい気分はすっかりしぼんで、何だか悲しい気持ちだけがラランの中に残った。





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