五日目:孵化

 それからも私は朝一番にマリエ様の部屋に向かい、彼女の部屋を掃除しながら、色々な言葉を交わしました。この頃には私達はだいぶ打ち解けていて、無表情が多い私でもたまに微笑みを浮かべることがありました。


今日は明後日のマリエ様の見合いの為、客間と食事の間をいつもより念入りに掃除するよう言われました。


一人では大変だったため、アンジェラと二人でおこなうことになっていました。


私が客間の鏡を磨いていると、テーブルの掃除が終わったアンジェラが傍にやって来て、突然私の腕を掴みました。

「あなた、こんなところに痣があるじゃない!掃除中どこかにぶつけたの?」

それは私の二の腕に昔からある痣のことでした。

「いえ、これは幼い頃からあるものです」

「結構大きいじゃない・・・何でこんな痣に?」

「気付いた頃にはあったので、私にもよく分かりません。両親に尋ねたこともありましたが、記憶に無いから自分でどこかにぶつけてきたのではと言っていました」

私が答えると、アンジェラは、そう、と言って溜息をつきました。

「あなた綺麗なのに、こんな痣があるんじゃ気の毒ね。まあ、言うほど目立つものではないけれど・・・・・・」

「ええ。よく見ないとわかりませんし、痣が一つ二つあったところで支障は無いですね」

私が言うと、彼女はやや憐みの混じった目で私を見ました。

「あなた、年頃なのだし、せっかく美人なんだから、もう少し自分のことばかり考えてもいいんじゃないかしら?・・・そうだ、この前お嬢様にお化粧をしてもらったそうじゃない。いい機会だから、自分でもやってみたらどう?」


そう言われはしたものの、私にはどこか他人事でした。生まれた時から使用人なので着飾る必要は無く、古傷を隠す必要も無く、自分の将来を考える必要もありませんでした。私は曖昧な返事をすると、掃除を再開しました。しかしマリエ様にも似たようなことを言われたため、彼女達の言葉が頭の片隅にぼんやりと残っていました。

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