四日目:告白

 次の日から、マリエ様の部屋に清掃に行くと、彼女と言葉を交わすようになりました。また、あなたはリンレイだからリンって呼び方がいいわね、とあだ名も付けていただきました。


その日も彼女は机に向かっていて、

「お父様が勉学勉学ってうるさいの。そんなに勉学をしたって、うちは大した家柄じゃないんだからしょうがないと思うのに」

「知識を身につけることは良いことだと思います。必ず御身の役に立つと思いますよ」

「そういうあなたはやらないの?」

「私はこういう身分ですから、雑用さえ出来れば問題ありませんので」

私が置物を拭いていると、再びマリエ様が尋ねてきました。

「あなたって、縁談の話はあるの?」

予想していなかった問いに、私は手を止めて彼女を振り返りました。

「縁談・・・ですか?」

「そう。無いの?」

「ありませんね。私はマリエ様のような身分ではないので、必要はありませんし」

「パートナーは?」

「居ませんね」

マリエ様は、そう、と言うと、少し伏し目がちになりました。

「少し前から、縁談の話が来てるの」

いつの間にかマリエ様は、完全に勉学の手を止めてしまっていました。

「それは喜ばしいですね。お相手は素敵な方ですか?」

私の発言とは反対に、マリエ様は浮かない表情でした。

「・・・まだ会っていないわ。それに、結婚なんてしたくないの」

「何故ですか?ご結婚は目出度いことですし、それにマリエ様のご身分であれば、いずれは避けて通れないことなのでは」


私の問い掛けに、マリエ様は黙り込んでしまいました。ややあって口を開くと、

「・・・そう。確かに、いずれはしなければいけないけど・・・。ほら、私まだ十五だし、早いのよ。気持ちの準備ができてないわ。まだここの家でわがままやっていたいのよ」

と肘掛に頬杖を付きながら仰いました。

「確かに、そうでございますね。マリエ様のご年齢を考えると、少々負担でございましょう」

「三日後に、見合いがあるの。億劫でしょうがないわ」

「お気持ちお察しします」

私が返すと、マリエ様は頬杖を付いたまま、にやりと笑って仰いました。

「リンが代わってくれたらどんなに良かったか」

私も苦笑して言いました。

「そればかりは、残念ながらお手伝いできないですね」

マリエ様は依然としてにやけ顔でしたが、瞳の奥の翳りは消えないままでした。

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