We switched seats for each opinion on the conclusions.

「……自分が、大岩を」


 蝋梅剛志、もとい大岩雪下殺害事件の実行犯は、そう呟いた。


 顔色の悪いままで、彼は一瞬天を仰ぐ。


「すいません、書記に徹していて分かりませんでした。どうしてそんなふざけた結論に?」


 かと思えば、スッと俺達に向き直った。

 ――あくまでもシラを切るつもりか。


 どうしよう。天岸さんの言う、思考の整理はもうできた。だから俺にはこれ以上犯人を追い詰める目的はない。庇うつもりもないけど。

 ……うーん。


 隣の天岸さんに「ちょっと」と小声で呼び掛けた。聞こえてくれたみたいだ、すぐに振り返ってくれる。


「どうした?」

「いや、この後どうしよーって思ってね。天岸さんはどうするの?」


 善人は蝋梅剛志と推理組とを見比べてオロオロした。

 やがて、グッとフードを被る。


「……本当に……剛志、なのか?」


 あれま。

 眉を下げている。どうにも、今明かされた真実は信用しきれないらしかった。


 それを皮切りにってほどでもないけど、更に他の人からも反対意見が出始めた。



「黄百合以外が罪を犯すなど、俄には信じがたいですね。どうしても黄百合ではないと?」

 はいはいそーですね白純のお嬢様。


「治の考えたことを疑うわけじゃないけどさ、学ラン君はオレらと一緒にいたじゃん? そんな時間ってあったのかな……」

 まあ、犯行現場に居合わせておきながら気づかなかったってことになるもんね。翁君としては受け入れにくいだろうな。


「ツヨシがそんなことするわけないじゃん! だって、あたしみたいなのにも優しく接してくれる気遣い上手だよ!? 絶対ありえない!」

 チアキさん、それ多分だけど『警察だから犯罪する訳がない』的なあれになっているよ。



 天岸さんを含めると4人か……特に何も言っていない人達はどうなのかな。



「……」

 桂樹葉月は上の空。何かを考えているのか、あるいは思考放棄を試みているのか。


「理論的に無理なくやれるのは剛志のだけやけんど……ん、ウチは中立扱いで当分頼むわ」

 なるほど。じゃあ、賛成・反対・中立で考えるか。備瀬君本人から申し出があったので。


「ボクも公正な立場から物事を判断させてもらおうかな……ちょっと待ってね、表を作るから」

「石蕗さーん、それ『賛成』『反対』『中立』で分けたらどう?」

「それでいこう。陽太、提案ありがと」


「俺は…………。…………いや、俺も中立だな。理屈には納得しているけどよ……まだメンタルが追い付いてねぇんだ。悪いけど」

 備瀬君くらいが普通か。……あれ、もしかしてここって普通の反応をする人が少なかったりします?



 中立派(一部は機能停止)も4人か。

 あれ。そうなってくると。



「剛志は……あっ、でも、もしかして……」

 風子信はまだ反対寄りな気もするけど。口調から察するに、何か他の真実に繋がるものでも見つけたのかも知れない。


「ここまで言っても理解してもらえない、か。それはそうだよね……どうしよう……」

 羽衣治は議論を引っ張ってきた側だ。当然、賛成を主張し続けるしかない。


「はー……やはりFBIとの仕事の方が良かったな。聞き分けの良さも議論レベルも全然違う」

 柊さん? FBIって何? ねえ何の話??



 とりあえず、賛成派は3人。

 蝋梅剛志本人は勘定から外すだろうから、全体人数は12人。

 ……今は4人、4人、3人か……。


「石蕗さーん、俺も賛成に入れといてー」

「りょー」


 バランスを考えた結果こうなった。やだな、めんどくさい。テキトーに流しておこっと。


 いつものように2回分の手拍子が鳴る。統計を終えた石蕗さんが複雑そうな表情で告げた。


「とりあえず全体的な結論は『蝋梅剛志が犯行を実行した』って感じだけど……それに対する賛成・反対のメンバーをまとめといたよ」


 「それから」と。リーダーは自分の隣にいた秘書を見つめて、言った。


「剛志本人としてはどう? 否定する? 肯定する? あるいは黙秘?」

「黙秘権なんぞ与える必要性はないだろう」

「あいあい心ちゃんはステイしててね」


 しれっと柊さんが犬扱いされてて草生える。


 尋ねられた本人の表情には、一瞬だけ翳りが見られた気がした。

 ……いや、気のせいだろうけど。



「自分は自己保身で人を殺すことはしません」



 そう、蝋梅剛志がまっすぐ言い返したので。


「分かった。君は否定する方向性ってことね」


 石蕗艶葉は手元の用紙に何か――多分、彼のこと――を書き加えて「かんせーい」と両手を広げた。


「んー……ごめん、一旦席を動いてもらっていい? 位置がごちゃごちゃして難しいよ」


 確かに。俺達みたいに、賛成の隣に反対がいるってところが何ヵ所かあるな。

 そういうわけで席替えをすることになった。うわめっちゃ学生時代を思い出す。


「……陽太。その……」

「天岸さん、バイバイ」


 不安と遠慮が入り交じったバスは無視して、2~4の座席を目指した。


「よっ、狐立の兄貴にフラれたもしくはフッた陽太の兄さん! ここ来てもええで!」

「じゃあお邪魔します永遠のフリーダム君」

「ムキーーーッ」


 備瀬君の顔面が騒がしい。黙っていれば自己申告通りで美形に見えなくもないのに、残念なタイプだ。

 俺が2番目に座ったら、隣に風子信と羽衣治が来た。自動的に柊さんが4番目に落ち着く。


「銀たこ、銀たこ」


 くいくい、と左からベストを引っ張られる。

 犯人は風子信だった。あだ名で分かっていたけど。

 保護者の方はなんか「頑張れ」って声援を送ってる。いや何? 怖いんだけど。


 「あのね」やら「えっと」をしばらく繰り返してから、彼はようやく本題に入った。


「……疑っちゃって、ごめんなさい……」


 ――ペコッと、頭を下げられる。


 謝られた。そう認識するのに時間を食った。


「……はあ……」


 どうしても曖昧な返事になる。不意打ちかつ初めての経験だったので。


 パァーッと明るい笑顔になった子供から目を逸らして、とりあえず前を向いておいた。気まずかったので。


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 結論の意見ごとに席を替えた。


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 筆者の緋衣蒼です。

 今回は学生のメインイベント、席替えが行われたので席順を公開します。


12 石蕗 艶葉    中立

1 備瀬 敦二     中立

2 黄百合 陽太    賛成

3 風子 信&羽衣 治 賛成&賛成

4 柊 心       賛成

5 公英 鼓      中立

6 桂樹 葉月     中立

7 白純 百      反対

8 善界 翁      反対

9 蝋梅 剛志     反対

10 チアキ リン   反対

11 天岸 狐立    反対

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