The person who carried out her murder,

「信だって何もできなかったって、皆も分かってくれているよ」


 最初は兄貴分としての優しさを見せて。次に口を開いた時には、ブレーンの片割れとして。


「彼女の死体は〖調理室〗の奥で発見された。君の言う通り、死因は絞頚……自分の体重以外が原因での首吊り的な感じだね」


 それから羽衣治が話した内容は、天岸さんとほぼ同一だった。……高校生とは言え医学を学んでいる人と並ぶ素人目線って何??


「――さて。じゃあクイズといきましょう」


 彼は淡々と無知共に質問を投げ掛けた。


「僕や天岸さん、あとは柊さんもですかね? まあ、遺体状況に詳しい人を除く方々が答えてください。

 僕達の見解が殺人で合致した理由は何でしょうか? 首吊りというだけなら、桂樹さんも仰ったように自殺も有り得る。なのに何故?」


 俺は黙っておいた。天岸さんから事前に死因を教わっていたという負い目もあったので。

 そんでもって面白いくらい空気が混乱しだした。頭を捻る人、悟りの領域を開く人、おそらきれい(現実逃避)している人とか。


 それをなんとか突破して、高音が正答する。


「顔が赤く腫れていたってところ?」


 石蕗艶葉は首を傾けた。

 合わせて動きつつ、羽衣治は「大正解です。なんでそう思ったんです?」と尋ねる。


 ……急に彼女の表情が梅干しを食わされた人の顔になった。え、何、怖。


「前に医学科の子が自殺死体を発見したらしいんだけど……その時の感想を教えてくれたことがあったんだよね……。『珍しいタイプの死体だった』『面が赤く腫れてんのに、状況は自殺だから混乱した』って……。だから、それは自殺だと妙な現象なのかなって……。


 ……その子としては面白かったらしいよ」


 your friend is crazy。イカれてるよソイツ。

 全員でギュムギュムとしかめっ面をした後、マトモな医学生の「とにかく」で帰ってきた。


「医学科の人の話を覚えていた石蕗さんが答えてくれるまで、誰も言えませんでしたよね?

 そんなものなんですよ。本来、知識のない中で死因を正確に突き止めるのは無茶難題です。なのに、信は僕達の大半が知らないままだった死因を知っていた」


 間を置いて続ける。


「だから不思議がっているんだよ。信はどうして知っていたんだろうって、思っているだけ。皆は信を責め立てるつもりなんかないんだよ。

 ……できれば、理由を聞かせてくれる?」


 それに対する弟分の返答は。


「……え? あ……待って……え? じゃあ、え? え、え、ええ? 待って……?」


 混乱。かなり狼狽えていて、いっそ可哀想。


 理解したんだと、その反応で直感した。

 気づいたんだ。風子信も。

 知識がない可能性が高いのに、死因を把握することができていた人間に。

 殺した人と殺された人にしか分からないことを知っていた人に。


 更に追い討ちをかけるような音が聞こえた。

 ――アルトの笑い声だ。


「ついでに整理してみようか。犯人の条件を」


 柊さんは人指し指を立てる。白の手袋越しでも、それは細く長いことが分かった。



「①当時タブレットを持っていたこと。

 付け加えるのなら、公英の証言によって〖使う〗のルートは潰れたから〖引きよせる〗を持っていることが条件だな。

 しかし、全体ではチアキちゃんから大岩雪下に手渡された部分までしか認知されていない。


 ②大岩雪下と2人で行動した時間帯が存在すること。

 正直、これだけで最初から考えた方が楽ではあったがな。……思い返してみれば、彼女から吹っ掛けたとしか考えられない行動だった。


 ③当時〖調理室〗から1室分までしか離れていないこと。

 ただし遺体の位置を鑑みてみれば分かるが、黄百合さん及びチアキちゃんのいた〖休憩室〗側ではない。つまるところもう1部屋の方さ」



 これらの条件に当てはまるのは。


 チアキリンに、どこから持ってきたか分からない〖引きよせる〗を返却して。

 大岩雪下と一緒に皆の筆記用具を取りに〖倉庫〗へ向かったことがあって。

 当時は〖調理室〗の1階上、背の高い本棚が並ぶ〖図書室〗で調査をしていたはずの。


 俺が風子信への現状説明を押し付けた人。



 カチャッと。万年筆が落ちる音がする。


 サインならあった。最初よりも少なくなりすぎた口数、ずっと悪いままの顔色。

 柊さんに至っては今朝から露骨だったよね。あれ、いつから分かっていたんだろう。


 「ねえ」と泣き出す寸前の声を出したのは、ついさっきまで疑われたと誤解していた少年。


「なんで俺に、チビは、絞められて殺されたって言ったの……? ねえ、答えてよ……!」




剛志ツヨシ!!!」




 蝋梅剛志は顔を上げた。


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 彼女の殺害を実行した人物は、

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