The method of killing is 〖ability〗.

「はぁぁぁ!? なん、は、何でだよ!?」


 バスバリトンが少しの静寂を切り裂いた。割とうるさい。名探偵も同じように感じたのか、しかめ面でシッシッと公英鼓を追い払う仕草を見せる。


「室内で犯行が起きていることを悟らせないようにだ。妨害される訳にはいかない、だから〖調理室〗を内側から密室化させた。

 更に言えば音を聞かれないためでもあるな。万が一、あのドアが閉まり切っていなかったら黄百合さんやチアキちゃんに気づかれたろう」

「ちょっと待って!!」


 今度は止める側に入ったか。

 桂樹葉月が両手で顔を隠すような動作をしていた。そのまま何度か肩が上下する。


「ありえない。そんな隠蔽みたいなこと、ありえない。だって、それじゃあ、まるで……」


 一瞬。しゃっくりでもしたのか、ビクリと体を強ばらせた。

 彼女は己の瞳を指の隙間から見せる。


「まるで、他殺されるのが分かっていたとか、それを手伝おうとしていたとか、そんな状態みたいじゃない!!」



 だから、そうだって言ってるじゃん。

 ……まだ口にしてないけど。



「桂樹さん。それですよ」


 羽衣治が涼しい顔をして肯定する。それは桂樹葉月を落ち着かせるためか、あるいは自らの精神的優位のためか。


「彼女は元々、あの時あの瞬間あの条件下で殺害される予定だったんです。そういう風に、実行犯と打ち合わせをしていたはずです」

「そんな……っ」


 衝撃が大きすぎて反論が思いつかないらしい。黒色が椅子の背もたれに寄りかかった。


「兄ちゃん。それ、理由は?」


 風子信が上手いこと繋げてくれる。

 でも、それこそ、君自身が指摘した内容の通りなんだ。

 気まずそうな表情で兄貴分は返した。


「分からない。わざわざ他殺されることを選んだ動機、自殺をしなかった理由、その両方が。

 ……彼女が負ったデメリットへの抵抗の無さが、僕達の思考を超えたから……」


 不可解事件。俺が今回のことをそう評した大筋の1つはここだ。

 あの子に死んででも達成したいことがあったとは、あんな僅かな生存時間では見抜けなかったので。


「俺、ちょっと思ったことがあるんだけど」


 最年少はしばらく黙った。瞳をあちこちに向けて、ヘッドフォンを触って。


「チビは密室が完成するより早く殺されていないといけないでしょ? でもそうしたら、チビ自身が密室を作れなくなる。特に首締めで死んだんなら、そういった死亡時刻って余計にシビアになると思うんだけど。その辺はどうなるの?」


 密室が完成したら殺せない。殺してからだと密室が作れない。

 そんな矛盾を突破する方法は、1つ。


「簡単なことさ」


 柊さんは口角を上げて、言う。



、その殺害したんだ」



「だから過程を言えっての!!」


 真っ当な意見が挙がった。公英鼓の喉がちょっとだけ心配。


「随分と飛躍しよったなあ。でも冗談言うとるようには見えへんし……しゃーない、とりま聞こーや」


 いち早く傍聴の姿勢を取ったのは備瀬君だ。普段のおちゃらけた雰囲気と、本気で思考をしているらしい真剣さが半々で存在している。


「皆、同じ形でバラバラの凶器を受け取ったでしょ? 今回はそれが使われたみたいだね」


 わざと表現を捻った。いつもの癖だもの。それも幸い、天岸さんがすぐに分かりやすく翻訳してくれたし。


「……全員に差異が生じるもの……。

 タブレットの〖能力〗のことか?」


 浅い首肯を返しておく。

 羽衣治のヒントの1つ。それは、殺害方法の方向性だったって訳だ。


「一部の〖能力〗だったら、全体にどんな〖能力〗があるのかを確認できるはずだよ。その一部の人には伝わると思うんだけど……。

 多分、あの中に直接的な殺傷事案を引き起こせる効果を持つものもある。だよね?」


 適当に問いかけてみたら、風子信がこっちを見た。


「俺も〖能力〗の名前だけは分かるけどさ、そこまで危なそうなのは無さげだったよ?」


 確かに名前だけならそうだと思う。そこで、柊さんがくれた証言だ。

 彼女もタイミングを伺っていたらしい。ニヤリと口角を上げて天才は告げた。


「もちろん。何の条件もない状態であれば、なあんにも危険はないさ。

 大岩雪下のが鉄製でさえなかったならばな」


 鉄製のチョーカー。装飾品はそこまで詳しくないけど、14歳の女の子が身につけるには些か違和感のある物だとは分かる。

 それは一旦置いておいてもらおう。そんなつまらないことの考察よりも、今は真実の共有が優先だと思うので。


「……鉄製……チョーカー……首絞め……」


 上の空で風子信はぼやく。他の人達も似たような反応をしていた。

 真っ先に正解を叫んだのは、検死役。



「〖引きよせる〗!! 多分、〖引きよせる〗はに関する効果があるんじゃないか!?」



 「そんなのあるんだ?」やら「知ってるならあらかじめ教えて欲しかった……」やら聞こえたけど、無視しておいた。面倒だったので。


「反社にしては上出来だな。反社にしては」


 いきなり柊さんが不機嫌になった。やめたげなよ、あんな気弱な人だとコンディション下がっちゃうだけだよ。あーほら「ごめん……」っつって蛸壺モード入っちゃった。


「……! だからアイツだったのか!」


 次に閃いたのは公英鼓。そうだ、柊さんと一緒に調査していたんだった。

 彼は重要参考人の方を勢いよく振り返る。



「チアキ!! ちょっと話を聞かせろ!!」



 急に呼ばれたチアキリンは頭を左右に振っていた。え、まさか君寝てた?


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 殺害方法は〖能力〗だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る