She prioritizes understanding the case.

「それならそう教えりゃいいだろ!! こんないきなり閉め出さなくて良かったろ、あんの女たらしイケメン女!!」

「情報の大渋滞が起こっちゃう呼び方で草」


 ギーッと吠えている公英鼓が面白い。そんでもって彼女がイケメンなのは認めてるのね。


 そういえば2人きりになったのは初めてか。相手が人殺しかもしれない中でこんな状況になるなんて、ストレスフルだろうな。


「悪ぃ、ちょっといいか」


 かなり真剣な声色だったから佇まいを直す。「なあに」と応じた。

 そして助手は単刀直入に俺へ尋ねる。


「今回の事件……お前はどう思う?」


 真意を図りかねて戸惑った。どう思うって、どう考えればいいの?

 質問者は内容を追記することもなくこっちを見つめている。とりあえず全体的な感想について述べることにした。


「そうだねー……今回の事件なら……うん。

 不可解殺人、かな」


 眼光が俺を穿つ。「不可解?」とおうむ返しした青年に頷き、少しだけ掘り下げた。


「動機だよ。全体的に理由が不透明なんだ。俺は知ったことじゃあないけど、分からないことに対する薄気味悪さが残るのが癪に触るね」


 トリック自体はどうでもいい。そこは羽衣治や柊さんが理解しているから。

 問題はそこからだ。


 不可能は好奇心か困惑、場合によってはこじつけの冤罪を。不可解は純粋な恐怖心を呼ぶ。


 ここで起こってはならないのは後者だった。だからこそ癪なんだよ。

 あの人物への無理解そのものが、これからとんでもなく厄介な状況になることを示すので。


 尋ねてきた側のくせに、公英鼓は「そうか」って端的な言葉でまとめた。静かになった空気をまた裂いたのも彼だったけど。


「……柊の言動は平気か?」


 柊さんのことが気になるんだね。青春。見つめ返していたら「浮いた話題じゃねぇよ??」と釘を刺される。あー痛い痛い。


 それはそうと、彼女か。


「たまに過激だなーとは思うけど、普通の女子校の王子様じゃない?」

「女子校の王子って時点で普通とズレている気がすっけどな」

「あと頭がいいよね絶対に」

「それは事実だったぞ。昨日の会話じゃ、暴れ馬から振り落とされそうな心地を味わった」

「落ちたの間違いではなくて?」

「凌ぎきったわクソが」


 例えが分かりやすかった。喉奥で笑い、尚も何か言いたげな年下を待っておく。

 やがて青年は不服そうな目で告発した。


「昨日、あいつも色々な奴から話を聞いて回ってた。でも相手のメンタル云々より……なんつーか、この事件を理解しているかどうかを気にしている感じがしたんだよ」


 首に手を当てて考える。


 ――この子達、もしかしたら思考の相性が悪いかもしれない。


 公英鼓は全員の安全を精神的にも肉体的にも優先している。それに対して柊さんは、事件の早期解決を志しているように思えた。


「まー、別に法外の行動ってわけでもないしね。君がそのフォローに回れる自信があれば放っておいてもいいんじゃない? 土曜日に子供が殺人現場へ入るなんてこともザラにあるし」

「死神の話題は止めろや」


 肩慣らしのツッコミをしてもらった直後。


 いきなり、ドアがそれなりの速さで開く。


「おっと」

「いっって」


 サッと回避できたのは俺だけ。可哀想に、公英鼓は間に合わずに扉とゴッッとぶつかった。


「えっ今なんか音が」

「すまないな黄百合さん。2人をお連れした」


 焦っているらしい、メッゾソプラノとソプラノの中間音。アルトのマイペースな雰囲気。


「……なぜ、黄百合ごときがここに?」


 そんでもって刺々しいメゾ。嫌悪感を隠そうともしない表情も、もはや慣れたもの。


「おはよ、白純のお嬢様。ついでに桂樹さん」

「私ついでかあ。おはようございます」


 昨日、桂樹葉月が〖図書室〗で錯乱していたというのが事実なのか否かは分からない。少なくとも俺から見たら今は落ち着いている。


「お前ら喧嘩するのは後にしろよ。桂樹、下の方は誰かいたか?」

「……ごめん。確認してない」

「そうか。女共は先に上の〖会議室〗に、」


 青年の声は最後まで続かなかった。


『おはよう! 皆、何があったのかを整理したいから一旦〖会議室〗まで来てねー。

 低血圧も起きといで! 今が……6:35か、ありがと。じゃあ遅くても7:00までには合流するんだよ!』


 遠回しに名指し食らってんのウケる。

 台詞を遮られた公英鼓を見る。表現しようのない感情にぶん回されているっぽかった。


「……そういう、ことだから。お前らは上で石蕗とかと会っとけ」


 首を左右に振って切り替えていた。

 というか待って? その言いようだったら、


「黄百合。お前こっちに付き合え」

「デスヨネ」


 知 っ て た 。



「わたくしも下へ向かってよろしいですか?」



 凛とした口調。疑問形でこそあるけれど、『断られるはずがない』という確信じみた傲慢さが見え隠れしている。


 白純百が挙手していた。


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 彼女は事件の理解を優先している。

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