She and I do not like each other.

「俺は別に構わねぇけど、理由は?」


 チラリと俺の方を窺いながら公英鼓が言う。そりゃそうだ。白純百はとてつもなく俺を嫌っている。俺だってここまで馬鹿な人のことは好きになれないのに、どうして?


 彼女は不思議そうな顔で質問に答えた。


「今から誰かがいらっしゃるのですよね? それでしたら〖休憩室〗でお出迎えしなければならないでしょう」


 てっきり『容疑者の黄百合ごときと2人きりなんて危険だ』くらいは言うかと思ってたよ。


「それに、容疑者の黄百合の分際で他者と2人きりで行動するだなんて。許されませんから」

「エスパーみたーい」

「ふざけるのは血筋と家柄のみになさい」


 胃痛が痛そうなツッコミが額に手を当てる。何か言いたそうにして、やがて諦めていた。


「それならば我々は上に行こう。――はい、桂樹さん。お手をどうぞ」

「完全に男性側のエスコートをしている点については気にしないでおくね。ありがとう」


 女たらしとクロがそそくさと退出していく。置いていかれた感じになるの地味に嫌だな?


「…………行くか」

「そだね」


 早くいなくならないかな白純百。



 ことあるごとにチクチクと嫌味を言われつつも〖図書室〗へ辿り着く。

 そのまま階段を下り、蹴破られた扉を跨いで〖調理室〗に入室した。


「それではわたくしは〖休憩室〗にて待機しております。こちらの扉を開けておきますね」

「分かった」


 無地の布団がかけられている物体へ義務的な祈りが捧げられた。

 それすら短い時間しか行われない。

 無垢はさっさと手をほどき、隣室に繋がるドアを押し開いて行く。


「さて……人はいないみたいだ。どうする? サブリーダーさん」


 副長扱いされた彼はちょっと驚いたらしい表情を見せた。

 それも束の間、公英鼓は全体をパッと見回して冷蔵庫――〖図書室〗の扉から見て正面にあった――を指差す。


「朝飯用に何か持っていこうぜ」


 彼は移動して、迷うことなく箱の下から2段目を開いた。

 暇なので青年の作業を後ろから覗く。内部でリンゴやみかんが転がっているのを見た。


「黄百合。〖休憩室〗側から見てすぐ右にある食器棚、そっからカゴとかを探しといてくれ」


 チョロチョロしているが気に触ったのかな。公英鼓は振り返りもせず位置を伝え、フルーツを片っ端から掴んでいく。とりあえず「はいはい」と言われた通りに動いた。


 家庭でよく見かける家具ばかりなのが少し意外だ。こういうのって、高級品とかを使わせてくれるシーンが多かったと思うんだけど。ま、それは置いといて。

 棚は2段に分かれているタイプだった。上には運搬用の道具、下には大皿やら小皿やら茶碗やらが揃っている。


 上側を開いて、昨日天岸さんから渡されたバスケットと同じものを2つ選んだ。パッと目についたので。


「昨日のやつも、用意してくれてありがとね。みかんとかブドウとか食べさせてもらったよ」


 彼の背後から断定する形で言ってみる。

 ピクリと動きを止め、公英鼓が振り返った。


「……食えたのか? マジで?」


 驚いていた。え、くれたのそっちなのに。

 ちょっと観察していたら彼が言いたいことが読めてくる。

 ああ、確かに不自然だったか。


 普通、死体を見た後は食べ物を入れにくい。


「食べましたけれども。お腹空いてたから」

「……すげぇな。一応準備しておいて、俺自身が欠片も食えなかった……」


 それから、ふいとどこかを見て「そういや」と呟いていた。


「柊に至っては勝手に米炊いて食ってたぞ」

「もっと強いじゃん」

「握ったのは俺」

「主夫じゃん」


 こき使われてんの笑う。彼もアルバイトで何かやっていたんだっけ。

 ひとまずは朝食――食べられる人用――の準備を終えて、上へ戻った。



「お帰り調理担当達あさごはん

「ざっっっけんな!!」


 柊さんの一声がお気に召さなかったようだ。公英鼓は力強くキャンキャンと吠えている。

 そっちは放っておいて、〖会議室〗で新たに合流していた人へ挨拶をした。


「おはよ。チアキさん」


 チアキリンはキッとこっちを睨み付ける。


 直後。

 〖PC室〗に繋がる扉の開閉音が響いた。


「ふあぁぅぅ……おはよーさん……」

「改めまして、おはようございます」


 低血圧と純白も顔を見せる。

 それを見て、蝋梅剛志がソロリと挙手した。


「艶葉さん。その……皆さん、揃いました」


 人数を合わせてみれば確かにそうだ。

 ――そう。13人。


 石蕗艶葉が秘書の言葉に頷く。パンパン、と2回手を鳴らした。


「皆おはよう。陽太と鼓はフルーツを持ってきてくれてありがとね」

「別に。黄百合の手伝いもあったし……あ。おいお前ら、無理して食うなよ。入れられる奴だけ入れておけ」


 なんかここ気遣い上手が多くない? 俺みたいな自己中の肩身が狭くなっちゃうんですが。


「はーい。それじゃあ挨拶もそこそこに」


 石蕗艶葉が中央へ立つ。

 それ以外で、俺は蝋梅剛志がルーズリーフと万年筆を構えるのを見つけていた。


「ぶっちゃけボクは何が起こったのか訳分かってないので、とりま皆の認識を擦り合わせよ」


 そんな感じで議論が始まった。


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 彼女と俺はお互いに好きじゃない。

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