He puts safety first.

「みんなぁああぁあぁぁ!!!」


 〖休憩室〗の真ん中で翁君がいていた。


「落ち着け!! ったく、お前ら怪我は?」


 公英鼓の質問に、なぜか首から肩までを撫でている羽衣治が答える。


「僕が起きた瞬間に翁から首をガクガクされたくらいかな」

「つまり我々が見ているのは幽霊か」

「死なせてないもん!!!」


 柊さんのブラックジョークに翁君はいて反論した。

 風子信がエレベーターを降りたのを確認して俺も前へ進む。無人の箱は下へ落ちていった。


「……あれ? 兄ちゃん、その言い方だと竹取の方が先に起きたみたいだけど……」


 羽衣治へ抱きつきつつ、子供は疑問を呈する。それを自然に引き剥がして翁君が頷いた。


「昨日の夜なんだけど、リンさんと……治、と話していたら、2人が急にぶっ倒れてさ。どうしようどうしようってパニクって、とりあえずリンさんを上の〖保健室〗に寝かしたんだ」


 羽衣治も首肯する。捕獲者の腕でバタバタと暴れていた弟分を回収し、彼は付け加えた。


「後から自室のある場所と連絡が取りやすい〖休憩室ここ〗に僕を運んだんだよね?」

「うん。それで、こっちに着いてから急に首が痛くなって……」


 どうやら翁君と羽衣治の気絶した時間にはズレが生じたらしい。てっきり皆が同時にやられたかと思っていたから、意外。


「チアキが上にいるんだよな? 剛志が上がってきたら、そっから回ってみるか」


 しばらくしてから気遣いの天才が俺達に追いつく。そのまま〖運動室〗、〖PC室〗、〖会議室〗を経由して上階へ向かった。



 〖運動室〗と〖PC室〗では誰とも会わなかったものの、3室目の正直というもので。


「おお、結構な人数が集まってんね。わざわざ上がってきてくれてありがとう」

「石蕗! それに天岸も! お前ら怪我は?」

「平気みたいだ。鼓達は?」

「今のところは全員問題なし」


 最年長の2人が起床済みメンバーに加わる。

 それにしても公英鼓、出会った全員に安否確認をしているな。引率の先生っぽい。


「〖保健室〗にチアキを置いといたって翁が言ったから、確認しに行くところだった」

「ちゃんと丁寧に扱ったのに」

「なお当社比である模様」

「一般比だもん」

「で、下の個室にはクソナルシストメガネが低血圧っつって残ってる」

「敦二のことだね。りょ」


 途中で挟まった榕樹劇場に対するツッコミはいなかった。

 サブリーダーからの引き継ぎを終えて、リーダーは司令塔の役割を果たす。


「ひとまずボクは〖PC室〗で〖会議室〗召集の放送をかけてくるよ。天岸と陽太はこっちをちょっと手伝ってほしいな。

 榕樹コンビ+信でチアキちゃんのいる〖保健室〗列、心ちゃんと鼓と剛志とで〖音楽室〗列の確認をお願い」


 ――直後。


「なぜ?」


 柊さんが反抗的な姿勢を示した。


 石蕗艶葉も驚いたようで、少し間を置いてから「何が?」と尋ね返す。

 それで柊さんは1人を指差した。


「なぜ蝋梅剛志が一緒なんだ? 我々に同行するのは黄百合さんでも問題ないだろう」


 蝋梅剛志はビクッと体を震わせる。一瞬だけ視線が空間の支配者に向きかけたけれど、すぐにパッと逸らしていた。


「別に剛志でも良くねぇか?」

「石蕗さん側に天岸狐立がいるから、そいつと別行動を取れることには納得している。だが同行者くらいは選ばせていただきたいな」


 絶妙に問題の本質を捉えていない言葉で、柊さんは蝋梅剛志を拒絶する。


「……君ら、喧嘩してたっけ」

「いや。こいつとは喧嘩すら起こり得ないよ」


 指導者は熟慮を重ねているらしかった。コツコツとこめかみを叩き、しかめっ面を見せる。


「後で詳細は聞くけどさ……剛志、陽太、悪いけど役割を入れ換わってもらっていい?」


 とりあえず「OKでーす」と返事をしておいた。チラリと蝋梅剛志の様子を伺えば、真っ青ながらも小さく頷いている。


「ごめんね、サンキュー。

 そういうわけで! 各々よろしく」


 そうして、また(今日の)原点3人組で動くことになった。



「柊。さすがにさっきのは言い過ぎっつーか、失礼じゃねぇの」


 〖音楽室〗に入室してすぐ。公英鼓が棘のある声色で柊さんへ注意する。

 対して彼女は、軽く鼻を鳴らすだけ。どこか小馬鹿にしているような雰囲気で受け取りすらしなかった。


「巻き込まれた俺の方は可哀想に思ってくれない感じ?」

「ドンマイ」

「シンプル」


 簡潔な返しでウケる。

 それはそうとして、〖音楽室〗を見回しても誰もいないから〖被服室〗に行くことにした。



 扉を開いて高校生2人に先を譲る。そこで発見があったらしい、柊さんが声を上げた。


「公英、黄百合さん、戻れ! レディーの身支度を邪魔するんじゃない!」


 速攻で公英鼓が返却される。

 勢いよく閉められた扉の前で、野郎2人が立ち尽くす状態になった。


「…………???」


 唖然として俺とドアを交互に見る青年に、苦笑を交えて教える。



「あのね、あそこには白純のお嬢様と桂樹さんがいたんだよ。化粧をしていたみたい」


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 彼は安全を最優先する。

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