He is calmer than I expected.
「さて、まずは我々に何が起きたかを推理してみよう」
柊さんからの提案だった。とりあえず適当に何か言ってみよう。
「全員が電気マッサージしてもらっている内に寝落ちしていたに1票」
「雷神が癇癪を起こしたに1票」
「真面目にやれ!!」
早々のツッコミお疲れ様。いいと思ったんだけどな、マッサージ。
「真面目に議論するためには全体と合流する必要があるだろうな。
ふむ。ピンポンラッシュで起こして回るか」
「近所迷惑の代表格を持ってくんな」
そういうわけで、俺達3人で全員の部屋を訪ねることになった。
エレベーター前から1番目――天岸さんの部屋、の、はず。そこからやるらしい。
「ここは女性の部屋か?」
「いや野郎。なんなら天岸さんだったはず」
返答した途端、イケメンは美しい線の左足を持ち上げる。
「さっさと出てこい暴力団!!」
バンバンバンッとドアを蹴り始めた。暴力団より暴力団じゃない? よく足痛めないな。
――3分後。
どれだけ柊さんが脅しても出てこない。俺も素手で連続ノックに参加したけど、無反応。
代わりに釣られた子がいた。
「……皆さん……何を、して……?」
向かい側から顔色の悪い蝋梅剛志がやってくる。「おはよ」と挨拶したら会釈で返された。
「剛志、お前は怪我とか無いか?」
「……自分は、大丈夫です。ありがとう……ございます」
タブレットを両手に抱えて俯いてしまう。その間、柊さんは彼に見向きもせずに扉を蹴りまくっていた。
「チッ……やはり反社は反社だな。犯罪者だからこんなものだろうが」
少し考えてみた。しばらくして、蝋梅剛志を手招きする。
「ねえねえ。昨日の夜、気絶させられる前はどこにいたの?」
キョトンとされてから数秒。
「……自室に」
なるほどな。聞こえていたには聞こえてはいたらしい、柊さんは扉を蹴るのを止めた。
「ひとまず全体を回ってからだ。それから上階を探ろう」
「とりあえずお前は蹴るの止めろ? 次から俺がノックするから」
「蹴るのは犯罪者だけだから問題ないだろう」
「大アリだっつーの」
やいやいと駄弁る2人を放置して、蝋梅剛志に現状をある程度説明しておく。
次の公英鼓のノックには反応が返ってきた。
「はーあーいー……」
眠そうな声で風子信が出てくる。ヤンキー君、小さくガッツポーズしたの見えてるよ。
風子信への説明は蝋梅剛志に丸投げした。ギーッギーッとか言って高校生達が痴話喧嘩を始めちゃったので。
俺の部屋はすっ飛ばして、桂樹葉月の自室前にやってくる。今回は俺がノックした。
「無反応……ってことは、そこの部屋の人も上にいるかも?」
「そーゆーこと」
暇を持て余した風子信がその隣のドアをベチベチ叩く。
――ヒラリ、と。扉の隙間から何かが落ちてきた。ひとまず5人でそれを覗き込む。
『低血圧だから遅れるわ 許してちょ🖤
by儚げ美青年の眼鏡枠こと備瀬敦二(^o^)/』
ザ・備瀬君だな。イラついたらしい公英鼓が風子信から紙をひったくて、そのルーズリーフをビリビリと破ってしまった。
その後は全部屋の前を通ったけど、俺達に応える人間はいなかった。
「えっと……信も、気絶する前は自室に戻っていたそうです……」
「そうそう。〖音楽室〗で急に気分悪くなっちゃって休んでたんだけど、途中で大丈夫になったから。メガネと一緒に戻ってきてたよ」
言ってから、最年少はちょっと表情を曇らせる。「ねえ」と俺達4人に呼びかけてきた。
「さっき、ヘタレから聞いたけどさ……
チビが死んだって……マジ……?」
空気が重くなる。
誰かが死んだ、殺された。そんな非日常の出来事が本当に起きた。子供にとっては受け入れるのすら難しいことなんか容易に想像がつく。
なんとフォローすべきか迷っていた。
「おかしくない?」
それは、予想を裏切る声色で。
「だってさ、俺達が初めて会ってから……えーと……1時間とちょっとくらいしか経っていなかったんだよ? どんな状況だったのかっていうのは知らないけど……。
いくらなんでも、そういう準備をする時間が無さすぎだって。それまでガッチリ団体行動していたけど、別行動した途端に……その……殺、人。できるのって、精神的にも時間的にも無茶すぎないかな?」
……冷静だった。あれくらいの歳にしては異様なくらい。
柊さんは浅く笑って「その意見は後に取っておけ」と返す。適当にあしらわれたと感じたのか、彼は不服そうにしていた。
エレベーターには当然のように柊さんと公英鼓が先に乗る。派手な音を立てて上昇していくのを眺めていた。
「黄百合さん、信。先に行ってください」
何かしらを提案するより早く、蝋梅剛志から言われる。特に否定する理由も思いつかないからお言葉に甘えることにした。
……多分、兄貴分に会いたがっている子供にも気を遣ってくれたんだろうな。
相変わらずうるさいエレベーターが戻ってきたので、揃って乗り込む。
直前まで蝋梅剛志に見送られつつ、俺らと一緒に運送機が上へ向かっていった。
「ねえ、信君? 怖くないの?」
途中で声をかけてみる。ヘッドフォンで遊んでいた彼は、退屈そうな顔で俺を見上げた。
「……事件が起きたこと?」
わざとぼかしているな。俺にしては珍しく単刀直入に告げる。
「俺が殺人犯かもしれないこと」
少年は1秒も開けずに答えた。
「別に。母ちゃんと父ちゃんの方が怖いから」
その瞳から子供らしさが消えていく。
殺人犯より恐ろしい両親、か。彼の身体に傷らしい傷は見えないけど。
表面に現れない跡なんか沢山あるもんね。
口には出さず、静止したエレベーターの隙間から〖休憩室〗を見つめた。
◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
彼は思っていたより落ち着いている。
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