Testimonies were gathered.
「はいはい」
起き上がって、ドアの右手側にある指紋認証パネルに指を重ねた。2秒くらいして『黄百合陽太、認証』の無機質な音声が流れる。またドアが横に開いた。
そこには何かしらを両手に持った長身が佇んでいた。
「悪い……ちょっと……入れてくれ……」
「どゆこと」
咄嗟に出てきたのがそれだった。いや無理ないでしょ、手荷物増やして戻ってくるとは思わないでしょ。
とりあえず右手にあったフルーツ入りのバスケットから受け取る。それから左手のバインダー&タブレットを渡してもらった。
「で、腕の間に挟んでるのは? 俺の服みたいに見えるけど」
「らしいな。石蕗が『入浴時に必要そうなのもあげといて』って持たせてくれたから」
そこで今と同じ服をチョイスするのか。でも彼女がそこまで気の利かない人だと思えなかったから、単純に他の寝間着が無かったのかもしれない。
勉強机の上にバスケットを乗せて、回転椅子に座る。ベッドに指を向けただけで天岸さんは意図を察してくれた。彼がそこに腰掛けて「うわっ」と沈んでいくのを横目にみかんを握る。
「俺の晩飯はここで済ませておけっていうことだよね。天岸さんは何食べたい?」
「理解が早いな。えっと……みかん、残っているか?」
「OK。はいリンゴ」
「あれ?」
パッと目についたリンゴを投げ渡した。みかんの皮を剥いていると、天岸さんから複雑そうな表情で見られる。けどそれも長くは続かず、大人しくリンゴを丸かじりし始めた。
「タブレットとバインダー、ありがとね。どこに置いてたっけ」
半分をちびちび食べながら尋ねる。彼は焦って果実を飲み込み、告げてきた。
「そこは聞き忘れたんだが……チアキと翁が渡してくれたんだ」
思わず「あの2人が?」って返した俺はきっとそこまで悪くない。だって、あの2人だよ? 俺を嫌っているのと疑っているセットだよ?
伝書鳩はこの反応に頷いて続けた。
「チアキから伝言があったよ。『ざっけたこと言ってんじゃねーよ夜職野郎ぶっ潰す』って」
「うわヒド」
確かに何の合わせもなく嘘八百を並べたのはアレだっただろうけど。法律のスペシャリスト相手に説教されたら面倒そうだと思ってやったことなのに、割と散々な評価を食らうなんて。
2粒をつまんで他の話を促す。大きい口がモゴモゴと動いてから報告が再開した。
「石蕗に証言を集めるのを頼んでみたらすぐに了承してくれたぞ。それで、〖PC室〗の放送機器を使って剛志を呼び出して話を聞けた。
剛志が個室から出てきたので7人目。その時にいたのがこのメンツだそうだ」
わざわざまとめてくれたらしい。新たに与えられたルーズリーフに目を通す。
『敬称・名前略 場所:名字
〈エレベーター前〉:大岩
〃〈から時計回りに〉1番目:天岸
〃〃7番目:チアキ
〃〃8番目:石蕗
〃〃9番目:羽衣&善界』
「2つ目も」と、裏面を指された。
『7人目 〃〃12番目:蝋梅
8人目 〃〃6番目:白純
9人目 〃〃2番目:風子
10人目 〃〃3番目:黄百合
11人目 〃〃10番目:柊
12人目 〃〃4番目:桂樹
13人目 〃〃11番目:公英
14人目 〃〃5番目:備瀬』
この生真面目な表記に筆跡。蝋梅剛志本人が書いたもので間違いないな。
それにしても、やっぱり記憶力が高い。俺が覚えていた4人も順番と名前が合っている。あの少年に尋ねたのは正解だった。
「こっちは6人から聞いた内容を剛志がまとめてくれた訂正版だ」と更に1枚を受け取る。
『1人目 〃:大岩
2人目 〃〃7番目:チアキ
3人目 〃〃1番目:天岸
(チアキ、大岩と会話後に自室へ)
4人目 〃〃8番目:石蕗
5&6人目 〃〃9番目:羽衣&善界
(チアキ、合流。大岩にタブレットの貸与)
以下略』
分っかりやすっ。特に気になっていた所が見やすい。すごいね最近の中学生。
「それで、尋ねた時の反応だけど」と天岸さんが切り出した。
「まず、チアキは石蕗から翁に頼んで聞いた。彼女の反応に異変は無かったけど……経由してもらった翁自身が不審そうにしていた。
治は、こっちが何をしたいのか最初から分かっている雰囲気だったかな。そっちについてはよく分からなかったが。
石蕗……石蕗は……普通? うん、普通に答えてくれた。
俺はこの質問の意図がよく分かっていないから、多分翁に近い感覚じゃないかと思う。
うん、こんなところだ。大丈夫そうか?」
理解はできた。そして疑問もできた。
「多分だけど、天岸さんがチアキさんの証言をしたでしょ」
「ん? ああ」
「チアキさんは自室に戻って何をしたの?」
尋ねれば、あっさりと回答がくる。
「タブレットを取りに行ったみたいだ。チアキから見て左の壁の……場所は覚えていないんだが、どこかを触ってドアを開けていた」
その手間を踏んだ理由は、直後の行動で察せられた。
「ひょっとしてさ。大岩さんがチアキさんに対してタブレットを貸してほしいとか、自分のタブレットが無いって話をしていた?」
目撃者はちょっと驚いたように顔を上げる。でもすぐさま首肯した。
「俺の方が出てすぐだった。雪下がこっちを見て『タブレットを持ってくるなんて思ってなかったです、どうしよう、置いてきちゃった、部屋の戻り方も分かんないよ』って半泣きになったんだ。そしたらチアキが雪下に話しかけて、『あたしのあげるから待ってて』って。俺のことも気にしないで、戻っていった」
少し間が空いたから終わったのかと思ったけど、それにしては何か言いたげな顔だ。
待ってみると天岸さんは童顔を覆った。
「あとは、わざとじゃなかったんだが……チアキが、その、最初は……。
……し、した……下着、姿……で、出てきていたみたいだから……服装とかメイクとかを直すためっていうのも……あるんじゃないかと思っている……」
よくよく見てみれば耳が真っ赤になってきている。草。
「チアキさんは下着で過ごす派なんだねー」
「そんなサラッと流さないでくれ……」
女の子の素肌は見慣れているけど、この人めっちゃ初々しいから面白い。また何かラッキースケベ事案を引っかけてみたいな。
ともかく、あの時点で気になっていた情報は拾えた。今度はこれらを照らし合わせたり延長線を探ったりしよう。
そう考えつつ俺のタブレットに視線をやる。
――その瞬間。
強烈な違和感が背中に貼りついた。
◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
証言が集まった。
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