The mechanics of the room are complex.

「それじゃ……蝋梅剛志君。彼に『個室から出てきた時に誰がいたのか』と『その後誰がどんな順番でどこから出てきたのか』の2点を聞いてきて。

 それから剛志君が1つ目に挙げた人達に同じ内容を尋ねて。後はー……発言を渋ったり曖昧だったり、様子がおかしくなった人がいたらそれも教えてね。よろしくー」

「分かった」


 指示を受けて相棒はエレベーターに向かう。けれど、乗り込む直前になって長い足を止めて振り返ってきた。


「なあ、それって石蕗に手伝ってもらっても大丈夫か?」


 石蕗艶葉か。言われてみれば、証言を集めるには人徳がある人物がやった方が効率的だ。なんなら天岸さんは向いていなさそうだったし。


「いーけど。法律の番犬に噛まれないよう気をつけなよ?」


 煽り混じりで警告してから思う。彼女のことは裁判官みたいに扱っているけど、弁護士とか検事とかの違う方向性を目指しているのだったらどうしようかと。

 3秒考えて、とりあえず忘れることにした。


 表現が気に触ったらしいけど、彼は眉を下げるだけ。怒鳴ることもせず赤ずきんはエレベーターで昇っていった。


 自室前まで移動する。外見は同じだけど、脇にあるアンロックシステム(俺の仮称)が全部異なっていたおかげで場所は分かりやすかった。

 エレベーターから時計回りに3番目の扉。右側にスタート&4択ボタン、スピーカーがある場所こそが俺の個室だ。


 普通に開けることを試みる。ドアノブも取っ手もないからすぐに諦めた。

 面倒ではあるけど仕方ない。ため息を吐いてスタートボタンを押す。


『A、B、C、Dの音声を流します。誰が嘘をついているかを答えなさい。ただし、嘘つきは1人であることとします』


 ……確か、嘘つき問題だっけ? 公務員試験でも出てくるって聞いたことある気がする。

 ともかく今回は嘘つき本人を答えればいいみたいだ。それならいい。


『A。[Bは嘘つきだ!]

 B。[Cは嘘つきだ!]』


 今は特に急いでいないし、最後まで聞いてみよう。それはそれとしてポケットから甘味と火元を取り出した。暇になりそうなので。


『C。[Dは嘘つきじゃないよ!]

 D。[Aは嘘つきじゃないよ!]』


 全てを喋り終えるまでに約30秒か。焦っている時に苛立つくらいの早さだな。

 Bの丸ボタンを押して1秒後。ウィーン、と典型的な自動ドアの音がした。


 足を踏み入れれば、目覚めた時と同じ景色。

 小2から高2まで過ごしていた場所がほぼそのまま再現されている部屋が視界に映る。


「趣味悪……」


 過去を体現しているか、ここまでのストーキング能力を持つ〖マスター〗か。どっちに放ったのか定まらない言葉が宙を漂った。

 ボスッとベッドに座る。そのまま煙草を咥えて、ライターの蓋を弾いた。



『ちょ待て待て待て待てーーーい!!!』



 空から大声が降ってきた。いや、空じゃなくて天井だけど。それよりもライターを落としそうになったことに焦る。羽毛が燃えたらそれだけで凶器なんだって。


「……何? 変態さん」


 心臓が機能しなくなりそうだったのを耐えて上を睨んだ。『何って』の台詞から喚かれタイムが開始される。


『あのねえ、君の自室にはスプリンクラー機能がついてんの!! 煙を検知したら水がジャージャー降るやつ!! 覚えてないの!?』

「あー、そういえばあったわ。百合ユリさんが付けてくれたやつだよね?」

『そうだよ!! 仮にそれ降らせたら掃除するの誰だと思ってんの!? 自分だよ!!』

「俺達を帰せば掃除しなくていいと思うよ」

『やだ!!!』

「あと純粋にうるさい」

『ごめんて』


 『勘弁してよね……』とか言い残して、声は途切れた。

 わざわざという言い回しを用いたのは、他の部屋には同等の設備が無いからだと思う。だから全体の説明で表記されていなかったんじゃないかな。


 煙草は諦めて、座ったままの姿勢で後ろに倒れた。濡れた部屋で過ごしたくなかったので。


 何を考えよう。手持ち無沙汰な時はスマホを弄るという方法があったけど、生憎今はそういった物は持ち合わせていない。

 それを思い返して気づく。タブレットとバインダーをどっかにやっちゃったことを。持ってくるように言えば良かった、めんどくさい。


 しばらくしてから道具を見直してみることを思いついた。とは言っても、初見だと意味が分からなさすぎて室内に放置していたんだけど。


 出入口近くに掲示板のような物がある。そこにピンで留めてある紙が俺に配布された道具だと分かった。板に見覚えが無かったからね。

 そこには上から数字が並んでいた。


『1


 12・1

 2』


 ……何度見ても理解不能なんですが。推理で解けそうなことで質問を消費するのは癪だから尋ねないけど。


 全部を足したら16。だけど多分そういうことじゃない。俺達は14人だから、何らかの区分が用意されていると考えても合わない。

 もっと言うなら『1』と『12・1』の行間も気になる。見せつけるような感じもするから、これそのものがヒントなんだろうけど。


 このA4紙自体にも何かあるのかな。印刷でよく使われている、普通のやつに思えるけど。燃やしたら文字が読める炙り出しとかだったりしない?

 そこ関連で気になったのは、白純百と公英鼓が差し出した情報の用紙だった。あれも俺の道具と同じ大きさな気がする。


 ……『PC室』での成果を石蕗艶葉か柊さんに聞いておいた方が良さそうだ。あるいは、『倉庫』を経由していたはずの蝋梅剛志。


 思考を止めてベッドに寝転がること、1時間ちょい。

 ようやくノックが聞こえた。


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 部屋の仕組みは複雑だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る