She has a sister.

「ってな感じのラインナップなんだよね。調べる場所は基本的に自由ってことにしようと考えているんだけど……ボクからの提案は、その振り分け方だよ」


 石蕗艶葉はそこまで言い、一度黙った。しばらく万年筆が用紙上を駆ける音を聞く。

 それが止むと彼女はプレゼンを再開した。


「まずは1番。2人組を2つ作って、残りは単独……1度で12部屋を調べる人海戦術。

 次は2番。2人組を7つ……2度に分けて調査する、1番とこれから言う3番の折衷案。

 最後は3番。3人組を4つ作って、2人組を1つ……2組が3度調べる安全性重視。


 まあどれも問題点はあると思うからさ、折衷案の折衷案とかあったら教えてね」


 ふむ、と唇に沿うように人差し指を当てる。


 1番の問題は、あのルールを見た後に単独行動を多く発生させることのリスク。

 3番の問題は、行き来が多くなることの体力的な負担。

 2番は1番より安全性が高く、3番より探索速度が早まる。個人的には3択の中だとこれが妥当だと思う。


 代案を探るか、2番で手を打つか、考えようとした時だった。


「X=2、Y=4」


 しばらく発言すらしていなかった人物。だから咄嗟には思い出せなくて、しかも単純な日本語じゃなかったから理解も遅れる。


 でも、それは確かに大岩雪下の声だった。


「……えっと……3人組を2組、と、2人組を4組……作ったら、どうかなって。そしたら、1回につき6部屋を探して、皆が2部屋の探索で済むんじゃないかと……で、でしゃばって、ごめんなさいっ」


 違和感は気のせいだったかと思うほど、次の台詞には以前通りの臆病さが滲み出ている。けれどその内容は真っ当なものだった。


「君も計算が得意なのか?」

「い……いや、あの、私は……方程式が、その、たまたま、相性が良かっただけ、で」

「でもスゴいよ! こんな早く1番良さそうな案を出せるなんて、セッカちゃんもジアタマがイイんだね!」

「そんな……そこまでじゃ……」


 高卒未満の女性陣に褒められて、彼女は真っ赤になって俯いてしまう。石蕗艶葉はにこやかな表情で数回頷き、万年筆を握った。


「他は?」


 ……明らかに計算で正答された後だよ。出せないって、この空気で。

 そう思ったけど言わないでおく。


「OK! じゃあー……多数決しよっか」


 やっぱりそうなるか。手っ取り早い方法に、誰も異を唱えない。


「1番!」


 石蕗艶葉が手を挙げながらぐるりと全体を見回す。シーン、と静寂が彼女を迎えた。


「……2ばーん」


 勢いを削がれた感じのしょんぼりした顔で手を下ろされ、再度促される。そしてまた静かになった。


「3…………もういいや、雪下ちゃんの案」


 やる気無くしちゃった。

 最後になった途端、バッと空気を切る音がいくつも聞こえる。


「というわけで雪下ちゃんの案、3人組を2組と2人組を4組作ることに決定しましたー。雪下ちゃん、提案ありがとう!」

「あっ、い、いえ……」


 声かけられるたびに小さくなってない?

 それは置いておいて。振り分け方を決めた後は、探索する部屋が課題だった。


「じゃあ、今度は希望する部屋を確認するね。それから調整を入れようか」


 先にペアを作ると思っていたから拍子抜けだ。でも、ありがたい手法なのも事実。『余った子は先生ボクと組もう』を見ずに済みそう。


 ……石蕗艶葉は脱出に関係するものを探したがっているんだろう。でも、ここまで手の込んだことを仕掛けてくるような〖マスター〗が簡単に逃がしてくれるはずがない。


 協力はする。だけど俺は長期戦を想定しながら動くつもりだ。


 そういうわけで、立ち入る回数が多そうなところをあらかじめ把握しておきたい。最優先は〖休憩室〗、他は〖PC室〗か〖調理室〗を希望しておこう。


「皆、そろそろ票をとるね。4階の左の〖保健室〗からやっていくよー」

「ラジャーだっちゃ」

「違う星から来た押し掛け女房タイプの電撃の鬼ちゃんいる?」

「クロ、危なっかしいところを狙うのやめろ。あと年代どうなってんだ」

「ツッコミは再放送のこと知らないの?」


 意外と桂樹葉月もふざけるタイプだと判明。頑張れツッコミ、負けるなツッコミ。


「じゃ、まず〖保健室〗!」


 手を挙げたのは備瀬君1人。

 「ダーリンはおらんのけ~?」とか言いながらキョロキョロしている。やがて彼は白純百へチラチラと視線を送り出した。


「百嬢、下駄で階段を昇ったり降りたりは大変とちゃう? 両隣が楽やないかとウチは思うわ。なあなあなあなあなあ」


 訂正。めっちゃ勧誘してる。

 あまりのしつこさに、彼女も上品な抵抗を諦めたようだ。「くどいですね」とバッサリ言い捨てつつ候補に加わった。


「……っと、とりあえず、〖保健室〗は君ら2人に任せるってことでいいのね?」

「シロは保育児メガネの子守りできんのか?」

「放任主義でお育ていたします」

「このご時世でそれはひどすぎへん?」


 託児の現場かここは。


「じゃ、ここ〖会議室〗の人…………気配で分かってきたよ挙げないやつだ。〖音楽室〗」


 学校の先生も大変だったんだろうな、多数決採る時。

 今回はちゃんと桂樹葉月が挙手している。ペアになるのは誰だろうと思っていたら、意外な子が元気よく名乗り出た。


「俺も行きたーい!」


 風子信。彼は両隣から視線をもらっていることを気にも留めずに理由を述べる。


「声優の卵のレコーディング無料で聞きたい」

「発想の勝利が過ぎない? まあ、いいよ。年下の面倒は見慣れてるし」

「俺がクロの面倒を見るんじゃなくて?」

「今すれ違い通信した?」


 そういえば、彼女には妹がいるんだったか。誘拐当日に限って風邪を引いたとかいう。


 保護者ズも「手数料は3万をATMにてお願いします」やら「よろしくされてください」やら言っていた。了承ということなんだろう。


 次は3階……〖美術室〗〖PC室〗〖被服室〗を募ることになる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 彼女は妹がいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る