He revealed the information.

「……説明ありがとう。心」

「名前で呼ばれる筋合いはない。是非とも名字で呼んでくれたまえ、天岸狐立」

「あ、うん。ごめん」


 秒速でフラれてる。柊さんは不機嫌な笑みを貼りつけ、荒々しく座り直しつつ天岸さんから距離を取った。


「これで全員終わったな! そいでお前さんはなんちゅー名前やったっけ」

「一瞬で忘れられてる……桂樹葉月です、へのへのもへじさん」

「備瀬敦二!!」


 やや強引な気もするけど、備瀬君が大きめの声で天岸さんから皆の意識を剥ぐ。桂樹葉月が巻き込み事故を食らっていたのはご愛敬。

 そのまま備瀬君は「ほいで」と話題を変え続けた。


「さっき艶葉の姐さんが言うとった探索でもせえへん? ウチは疲れんの嫌じゃけん、近場の……せやな、葉月のが〖音楽室〗に行きたがるやろうし……〖保健室〗でええわ」

「わあ私の意見盗まれた」


 巻き込み事故パート2されてて草。


 それはそれとして、俺は蝋梅剛志じゃないから地図を覚えていない。他の人も流石に記憶できていないようで、白純百の方へ注目が集まっていった。俺は逆に目を逸らしたけど。


「石蕗さん、こちらをお使いになりますか?」


 1人1人に決めさせるよりリーダーに采配を委ねる方が良い。そう判断したらしく、白純百から石蕗艶葉へ情報が渡される。


 ――その寸前。



「それ触んな!!!」



 ビクッとほぼ全員の肩が跳ねた。

 1拍置いてから、俺は、自分自身の心臓の音ばかりが反響するのを耐え始める。

 バスバリトンの、怒声に似た勢い。


「いきなりどうした。知り合って短時間だが、今の発声は貴様らしくないと思うぞ」


 公英鼓が立ち上がった。彼は気まずそうな色でその強面を染めていく。


「……ルール違反」


 囁き声の内容を、俺が理解できる余裕はなかった。

 

「禁止事項のこっちゃな。そいがどげんしたと?」


 大して驚く様子もなかった備瀬君が首を右へ傾ける。それに合わせて灰色の襟足が机と接触した。

 公英鼓は一瞬だけ迷うように目線を動かし、でもすぐに「アイツの」と話し始める。


「〖マスター〗への質問で……クロ、の質問を消費しなかった理由、覚えているか?」

「桂樹葉月だよ金髪ピアス派手ジャージ君」

「公英鼓! あん時に……………女たらしが指摘しただろ」

「柊心だヤンキーフェミニスト記憶力皆無男」

「コ・ウ・エ・イ!! 禁止事項を割り振られた奴がいるって」


 騒がしいことはどうにか分かるけど、ドッドッドッと意識が心拍音に潰されかかっている状態の俺には、いまいち内容が掴めなかった。


「俺だ」


 ぶっきらぼうな口調と共に、空色ジャージの上着のポケットから雑に畳まれた紙が現れる。彼はそれを広げるとルーズリーフにガリガリと何かを書き始めた。


 しばらく待って、完成したらしい用紙を蝋梅剛志から逆時計回りで共有していく。俺もその頃には、風子信の背後から項目を確認する余裕を取り戻せた。



『共有事項

 ①挑戦者によるタブレット重複所有

 ②挑戦者による道具重複所有

 ③異なる立場区域への侵入


 特別事項

 1:事実と異なる証言

 2:特定の参加者に対する隔離

 3:観戦以外を目的とした配信

 4:参加者の認識の阻害

 5:トリックの再利用

 6:〖投票セレクト〗の妨害

 7:参加者情報の変更

 8:睡眠用椅子の改造

 9:殺人』



「何がきっかけになるかまでは、これじゃ分からねえ。猫目もシロも該当しそうな行動は止めとけ」

「じゃあ……百ちゃん、地図をツッコミ君と同じように書き写してくれる?」

「分かりました。金髪ピアス派手ジャージヤンキーフェミニスト記憶力皆無ツッコミ保育士さんと同様にですね」

「ツ・ヅ・ミ!!!」

「草」


 もはや女性陣の意地を感じる。風子信から呼ばれるのは気にしないかもしれないけど、公英鼓がそれを使った途端にこの扱い。可哀想。

 ――というか、ちょっと待った。


「立場区域?」

「……隔離……?」

「観戦? 配信? やっぱテレビ?」

「認識の阻害ィ?」

「トリックの……なんて?」

「……殺、人」


 俺の呟きに便乗するかのように、大岩雪下と翁君も各々の疑問点を言葉にする。更に備瀬君とチアキリン、蝋梅剛志が反応を示した。


「待て待て、9に至っては赤髪クズの目的と大いに矛盾しているじゃないか」


 柊さんが指摘した通りだ。マーダー……殺人ミステリーとか言っておきながらルール違反にしているのはおかしい。


「わざわざ明記しなくても普通の人なら殺らないだろうけどね」


 若干煽るような口調で告げておく。

 抑制にもならないだろうし、実際にそういったことは起こらないと思いたいけど、一応。


「ちゅーか、それはええんか?」


 俺の台詞を無視した備瀬君からの意見に、公英鼓が手元に目を向けた。確かに複製という手法はグレーかアウトかの判別がつけにくい。

 さてどうするんだろう、と思った矢先。



 公英鼓がチアキリンに顔を近寄らせた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 彼は情報を明らかにした。

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