She is from a good family.
「君って確かに育ちが良さそうな感じがするもんねー。やっぱおやつはキャビア?」
「……そこまでテンプレなお金持ちって、逆にいないんじゃないんですか?」
「3時のおやつは和菓子でした。金箔を見るのが楽しかったです」
「苦学生のメンタルブレイク止めようよ」
「尋ねられたのはそちらですよ」
「墓穴掘ってましたね」
きゃいきゃいと高卒以上っぽい女性陣が会話している。その流れに乗じてか、ケイジュハヅキが微笑んで自己紹介カードを見せてきた。
『
所属
①彗星アニメーターアカデミー,声優コース ②ジャスミン・ラヴ! ,接客アルバイト
状況
妹の代わりに学校へ赴いた
特技
歌
体質
声が割と高い方』
「えっ、クロって声優目指してんの?」
「ク…………まあ、うん。アニメとかが好きだから」
本人が苦々しい雰囲気なのは、所属の②を書きたくなかったからかもしれない。ヒントは秋葉原とオムライス。
「あー、今スッゴイ納得した! ハヅキさんメッチャカワイイ声してるもんね!」
「そんな……私なんて、そこまで大したものじゃないよ。でもありがとう」
チアキリンから声を褒められている一方、別の部分に着目している人がいた。
「妹の代わり?」
フードの男の人が呟く。それを拾った石蕗艶葉が「詳しく教えてくれる?」と深掘りした。
「妹……ハナっていう子がいるんですけど。今日は大事な書類を出さなきゃいけない日だったみたいで……あ、本人は風邪で休んじゃってました。
それで、ハナの担任の先生に呼び出されたんです。代わりに提出してくれって。バイトを早上がりさせてもらって、学校に行って……」
そこからは言いにくそうに口を閉ざす。その後に何があったのか。それはご覧の通りだ。
もっとも、その教師とやらが男なら、もう一段階あってもおかしくないけど。
「OK、言ってくれてありがとね」
石蕗艶葉もそれ以上を求めずに切り上げた。桂樹葉月はあからさまにホッとした表情で頭を下げる。
「次は俺がいく」
間髪を入れずにコウエイツヅミが挙手した。彼は全員から注目されるより早く、カードを差し出す。
『公英 鼓 コウエイ ツヅミ 18 男
所属:思鏡学園3年、【オリエンタル・ビタースイート】(喫茶店)厨房アルバイト
状況:近所の河川敷で見かける野郎5人からいきなり頭を殴られた
特技:家電修理
体質:花粉症持ち』
「5人! 随分と警戒されたな」
「こんな見た目している奴を誘拐するってんだからな。俺自身はケンカもろくにしたことねぇんだけど」
「ツッコミ、ヤンキー顔の自覚あったんだ?」
「不名誉極まりないあだ名止めろ」
「ヤダ」
なんか色々と可哀想。ボケノリツッコミについては助けるつもりないけど。
「あっ、あのっ、次オレで!」
未だに机を睨んでいた翁君が慌てて立ち上がった。残り3人という少なさになってきて、さすがに焦ったみたいだ。誰だってラストの自己紹介は緊張する。
彼は視線を右と下に流して、また正面を向く。翁君の背後にいた俺は紙を一瞬盗み見ることで内容を把握した。
『
拐われた状況 治と同じ
特技 運動だったら大体
体質 破壊神
所属
・榕樹高等部2学年(推薦生)、メディアコース
・
・色々な番組』
「高校生になったら皆ヤンキーになるの?」
「信、それをあの2人がいる場で言わないようにしようね」
「聞こえてるぞオイそこ!! 誰がヤンキーだ、冤罪だっつーの!」
「事務所の字面もあるし色々壊すけどさああ、わざとじゃないってばあああ」
「『体質 破壊神』のパワーワードがレベチ過ぎるんだよ……」
桂樹葉月がボソッと呟いた言葉に心の中で同意する。テレビを見ていない人でもいない限りは否定してあげられないだろう。
後は俺とパーカーの男の人だ。どうするかと思って相手を見やると、彼と視線が合った。
男の人は浅く頷いて俺へ右手を向けてくる。先にやってもいいらしい。ありがたいなと思いながら咳払いをした。全体の注目が集まったところで、自分の書いた内容を素早く見直す。
『
所属、有国大学の情報学部2回生(1回留年しただけだから触れないで)・洋酒愛好サークル
誘拐、恋人と呑んでた
特技、カクテル作り
体質、軽いパニック障害(優しくしてね)』
どんな反応だろうかと少し待ってみた。
真っ先に聞こえたのは、元気な少年の声。
「銀たこ!」
「いやなんで?」
「たこ色のベストと銀髪でなんとなく」
「ワインレッドって言ってほしかった」
「えっ、じゃあワンコイン」
「どこをどう弄ればそうなるんだよ!?」
「ワンコにワインを捩じ込んだの」
「どーもー銀たこでーす」
「拒否したな……」
公英鼓のツッコミがありがたい。俺だって好き嫌いはあるんだよ。
「はぁ~~~? ウチだって今たまたま作ってないだけで彼女の1人や2人すぐに連れてこれるわ! リア充のバーカバーーカバーーーカ」
「恋人を1名や2名作る方はちょっと……」
「あっっっまっちょっ今のは言葉のあやで」
「墓穴掘りパート2を見た」
もう一方ではハイバリトンが拗ねてた。でも言葉選びをミスって、備瀬君を構っていた女性2人から冷たい目を受けてもいる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
彼女は優れた家柄の人だ。
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