参加者と
ピシッと全身が凍てつく感覚。
嘘だろ、と掠れた声が出た。
――こんな状況で、あんなルールを見せつけられた後、一番気になるのが、それ?
咄嗟に皆の表情を窺う。自分と似たような反応をしていた。強いて言えば、眼鏡の男性が「おもろっ」と笑っているくらい。
「…………………………企業秘密」
「ですが先ほど、1人につき1つまでなら回答なさると」
「もうちょっとちゃんと聞いて? 私は回答に虚偽を用いないだけ。拒否らない、なんて告げた覚えはないよ」
「返事を拒む場合もあると告げられたこともございませんが」
「あーもう! 分かった分かった、今の質問はカウントしない! というか答えられない質問は基本的に数えない! だからウチにも拒否権ちょうだい!」
両手を合わせて懇願する。それで向こうがようやく「余程知られたくないのですね」と折れてくれた。
性別なんか答えたら人類の約1/2ってことで身バレの確率上がるじゃん。つか俺自身も区別できなくなるくらい弄ったし。
「ねえ」
次に聞こえたのは、随分と強張った雰囲気の声だった。焦ってバクバクと鳴っていた心臓を落ち着かせつつ相手を確認する。
「さっき言ったよね。【童話デスゲーム】シリーズって」
猫目の女性は、親の仇でも見るかのような表情でアタシを見ていた。
「ツワブキアツハを知っている?」
それには沈黙で返す。黙り続けて、やがて私の方から、相手がそれに気づいてないことに気づいた。
「あのー、もう君からの質問は受け付けちゃったんで……」
「は!!? そんな、ふざけっ」
「あ」
別の声がしたのは、彼女が立ち上がる寸前のことだった。
「……使ったぞ。俺達は」
赤いパーカーの男性が言う。
「君は使った。俺達を誘拐した実行犯の詳細を知るのに。
俺も使った。あの放送が、この人によるものだったのかを知るのに。
疑問文で、確認をとったんだ!」
早速見抜いたか。
そう、彼らはもう質問を消費した。だからウチは答えたくても答えられない。
最初は何のことを言っているのか分からなかったらしく、猫目の女性はイライラとした雰囲気でこちらを睨んでいた。
しばらくしたら話に追いついたみたい。愕然とした顔で「しまった!!」と叫ぶ。
「……僕の怒声に中途半端な反応をされたのは、1つ目の『あんたはなんなんだ』が質問にカウントされたから……ってことですか」
華奢な男子が悔しそうに自分の整った錆色の髪を掻き回した。そういうことさ、ホームズもしくはワトスン君。
それどころじゃない反応を示したのは質問形式を見破った男性。
「俺が一番どうでもいい質問をしてしまった自覚はとてもすごくかなりある。ごめん、皆」
「めっちゃ言うじゃん」
彼の隣にいる銀髪の男性が微かに笑う。だけどその妖艶な笑みを消して「次、俺で」と独特な瞳を向けた。
「今からする質問にはNoで答えて。お願い」
おお、と自然に声が漏れる。日本語による機転が早い。
「質問の回答では嘘を吐かない旨を告げてきたよね。和装レディーから言及されたことによって、追加で拒否権を獲得したけど。
その前には爽やかボーイから自分の正体について尋ねられたと受け取り、まるでカンペをなぞっただけのような回答をしている。
ここまでは確認事項。今からが質問内容。
一連の騒動、ひとまずはアンタの仕事と仮定する。仕事における〖マスター〗としての立場ではなく、アンタ個人、プライベートに関与する質問をした時には回答を拒むの?」
今回のメンバーやっぱヤベェや、と思った。去年の中学生+教師役の和気あいあいとしたデスゲーム【ランプの殺人】がもう懐かしい。
答えに窮して再度沈黙していたら「もういいや」と言われた。ごめんて。
「この人が嘘を吐けないってのは本当みたいだよ。……今の回答はYesだと思う。でも俺のお願いに従おうとした場合、Noと言わなければいけない。それは嘘になる。だから今、回答できずにいる……こんなところじゃないかな」
「ああ、中々悪くない考えだ。次はその辺りの真偽を確認する質問をしていくか?」
「頼める? 俺の質問権も多分保留状態だから、1つはいけると思う」
「あのさーーー!!」
あまりにもポンポンと進みそうなミラクルマジカルロジカルタイムを急遽、停止させる。いきなりなんだと言わんばかりの銀髪野郎と男女を全力で睨んだ。
「黒子ちゃんとメガネマンとヘッドフォン君と筋肉マンと学ラン君とギャルちゃんが限界チョットマエ! やめたげてよぉ!」
「黒子!?」
「おまんにメガネち言われとうないわ!!」
「ねえあの2人生きてる?」
「繧「繧ソ繝槭う繧ソ繧、繝ィ」
「あ、みて、かわがきれい」
「誰か……誰か、ゼカイさんと女の人を助けてあげてください……!」
ガタイの良い男子と日焼けている女子が特に深刻。頭から湯気が昇るよ、その内。
「……、……の……、あ、の……」
小さな声が聞こえる。何度も呼びかけていたらしいそれをようやく認識した。
小柄な少女が、ちょびっと手を挙げる。
「……質問って……後から聞く、みたいな。保留? って、できますか……?」
「できるよ!」
マトモな質問に間髪を入れず回答した。
彼女がホッとした風の表情を見せたのも束の間。「それ質問になってる」とヘッドフォンの少年から指摘されて泣きそうな顔になる。
「あ……えっと……ご、ごめん、なさいっ」
「大丈夫、大丈夫。むしろファインプレー!」
「そうそう。緊張しただろうに、ちゃんと尋ねてくれてありがとうな。お兄ちゃんよりも良い質問だったよ」
「……おじさんは何を尋ねたんですか?」
「……放送したのは君なの? って」
「……言わせちゃって、ごめんなさい……」
「……いや……いいよ……ごめん……」
「お嬢さん、気が向きましたら彼のことをお兄さんと呼んであげてください」
猫目の女性のフォロー虚しく。微笑ましく見守ってたら凡ミス2名でどんどん落ち込んでいった。白い女性が追記してあげた内容は、認識のすれ違いを優しく正そうとしているだけ。
「あ゛ーっ、分かんねーーー!!」
頭の良い連中の会話に耐え切れなくなったらしい。ガタイの良い男子の声が部屋に響いた。
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