第弐骨 頭《こうべ》⑦
■伍
山路さんが勧めてくれた店は、そこそこどころか、かなり
僕は生きた甘エビをそのまま
「なんだか、結局骨探しとはいかなくなりましたね」
「そうだな」
「どうしましょうか、甘エビを買って帰りますか」
「興が
そんな訳で、遅い昼食の後はばあやさんの指令通り
我慢しきれずに宝石みたいに
あんまり美味しくてそのまま数匹つまみ食いしていると、「もう食べているのか」と最初は
「それにしても櫻子さん、なんでこういう曲ばっかり聞くんですか?」
眠りたくなったけど、眠れそうに無い。その要因の一つ、iPod を接続したカーステレオから、がんがんメタルが響いているのが耳障りで、僕は思わずそう問うてしまった。
「何故と言われても、ディアベル閣下の歌声に優る美声はないし、聖鬼Mk-IIを越えるバンドはこの世に存在しないからに決まってるじゃないか」
「はぁ……」
お嬢様の定番といえば、クラシックじゃないのか? 櫻子さんの相変わらず理解しがたい感性に
「──あ」
「どうした?」
「ちょっと待ってください、そこの、屋根の上に!」
「なんだ?」
「見てください、あれ……」
慌てて車を止めるようにお願いすると、櫻子さんは怪訝そうに近くのパーキングエリアに車を停車した。櫻子さんがのんびり後をついてくるのを確認しながら、僕はバス停に駆け寄る。
冬場の寒さよけなのか、番屋を模したような木製の味のある
「ほう!」
櫻子さんはそれを見ると、フクロウみたいに一声上げて、僕にしゃがむように手で合図した。
「何ですか?」
「肩車だ」
「ええ~」
櫻子さんはスタイルがいい分、けっして
「早くしたまえ」
「仕方ないなぁ……」
そんな僕の憂慮なんて
「じゃあ……どうぞ」
にょっきりと、櫻子さんの長い足が、僕の首をまたぐ。
「よし、上げて良いぞ」
櫻子さんはやっぱり重かった。良いぞ、と言われても、僕は全然良くない。とはいえ今更無理だとは言えないし、僕だって男だ。片手と片膝を地面について、ゆっくり腰を上げようとすると、櫻子さんがバランスを崩しそうになった。
「危ないじゃないか」
頭上から
「うぎぎぎぎ……」
「キミは非力だな」
「言わないでくださいよ……ッ」
やっぱり櫻子さんは重い。首が折れるか肩が
「よし、下ろして良いぞ」
「取れましたか?」
「ああ、問題ない」
こっちは色々問題があるんですが……と思いつつ、バス停の壁にしがみつくようにして櫻子さんを地面に下ろすと、本日二度目の腐敗臭が僕の鼻に飛び込んできた。
「……うっぷ」
「小型犬だな」
車のボンネットの上に、白い毛玉を広げ、櫻子さんがフン、と満足げに鼻を鳴らす。
「やっぱり動物の死骸でしたか……」
それはどうやらマルチーズの死骸のようだった。羊のように縮れた白い毛が、
「なんでこんな所に……?」
「下肢が片方無い」
「そうですね……ああ、首輪してますよ」
首輪をしていて、いかにも飼い犬だったような、その小さな塊を見て僕が
「うむ。ぎりぎり入りそうだ」
「櫻子さん!?」
「なんだ? まさかまた私の物にしてはいけないと言うんじゃないだろうな!」
いそいそと袋に小犬をしまい始めた櫻子さんに
「当たり前です! 飼い主がいるなら、捜してるかもしれないじゃないですか!」
「知ったことか」
「見つけたのは僕ですよ」
「なんだと?」
「僕が見つけたからには、僕の自由にして良いはずです。じゃないとあのアザラシの骨だって、僕が持って帰ってしまいますからね!」
「…………」
ぷいっと顔を背けた櫻子さんだったけど、僕が険しい表情で反論すると、大きな
「まったく! 君というヤツは!」
ぶつぶつ文句を言っている櫻子さんを無視して、僕は息を止めながら小犬の首に手を伸ばした。触りたくないけど仕方ない、慎重に首輪を外すと、裏側に『ナナ』と書かれた横に0164から始まる、
「やっぱりだ。首輪の裏……これ、多分電話番号です」
「そうか、それは良かったな」
興味なさそうに、櫻子さんがぶっきらぼうに言った。僕は苦笑しながら、書かれている番号にスマホをタッチすると、電話は無事
ナナはやっぱり迷い犬だった。不満そうな櫻子さんをどうにか
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