第18話【工作の末路 確保】

【4時間前 sideルーミル】


 お隣さんが新しく店をオープンするとかで通りがにぎわっている。『あの人』にこの辺りの店をつぶすよう言われているから何とか邪魔しようとしたが、無理だった。


(あのゴミの山を全部片づけてオープンさせるとはね。ガンジールを妨害させに行かせたけどあんまり期待できないし……)


 『あの人』から目立たないように言われているからあまり大っぴらに動けない。


(まぁ娯楽品って言ってたし、そこまで気にする必要もないかな。それより、いい加減パン屋をつぶさないとまずいわね)


 娯楽品であれば残っていても大きな影響はないだろう。それよりもベーカリー・バーバルだ。食料品を取り扱っている店はあらかた支配したが、目の前のパン屋はいまだに手が出せずにいる。


 今までは、卸売り契約を結ぶか、断られたら店をつぶしていた。飲食店をつぶすのは簡単だ。悪い噂を流せば、だいたいつぶれる。それでも残るようなら、商品に毒を混ぜれば一発だ。


 しかし、ベーカリー・バーバルは悪い噂を流してもびくともせず、管理が行き届いているため毒を仕込むこともできない。従業員を買収しようとしたが失敗した。


(はやく何とかしないと『あの人』に私が怒られる。どうしたら……)


 私がベーカリー・バーバルをつぶす方法を考えていると、店の入り口が開く音が聞こえた。


 ガンジールを管理するためにはこの店に居続ける必要がある。カモフラージュのため、店員のふりをしているだけだが、ある程度、店員として働かなければならない。面倒だが、声を出す。


「いらっしゃ~い…………ってあれ?」


 入り口を見るが誰もいない。聞き間違いだったのだろうか。


 ふわっと店内に風が吹き背後に人の気配を感じた。


 私は振り向こうとしたが、口元に布をあてられ、身体を拘束される。次の瞬間、私は意識を失った。




 意識が戻ったとき、私は体を動かせなかった。周りを見渡すとどうやら牢屋の中にいるらしい。牢屋の壁に大の字で拘束されて、全く身動きが取れない。顔を上げると、牢番がどこかに連絡していた。おそらく、私が起きたことを伝えているのだろう。しばらくすると、覆面を被った男が牢屋の中に入ってきた。


「ルーミル=オーティスだな?」

「そ~ですけど~。何なんですか~。ここはどこなんですか~」


 私はいつものように答える。男の手には噓発見用の魔道具があった。うかつなことはしゃべれない。


「ガンジール=ドットに改造ヘロインを渡していたのはお前だな?」


 内心で舌打ちを打つ。この様子だと、ガンジールは捕まったようだ。おそらく改造ヘロインの出所を探っているのだろう。


「改造ヘロインってなんですか~? ってゆ~か店長改造ヘロイン持ってたんですか~。ちょ~やばいじゃないですか~」


 下手に嘘をつくと魔道具が反応してしまう。嘘にならないようにごまかすしかない。


「すでにドット商会の店内から改造ヘロインが見つかっている。店舗の管理していたのはガンジールだが、お前も常に一緒にいたらしいな。そんなお前が改造ヘロインに気付けないわけないんだよ」

「え~私~よく分かりませ~ん」

「今ならまだ間に合うぞ? 正直に話すんだ」

「そんなこと言われても~分からないものは分からないです~」


 知らないと言うと嘘になるが分からないと言えば嘘にならない。『あの人』から噓発見用の魔道具対策はきっちり仕込まれている。


「そうか」


 男が牢番に何かを指示すると、牢番外に出て行った。


 男は私の服に手をかけ、引きちぎる。よくもまぁ拘束されている女の服を引きちぎれるものだ。慣れているのか、私はあっという間に下着姿にされた。


「きゃ~何する気ですか~」


 乱暴する気だろうか。その程度なら我慢できる。


「やめてください~。誰か~助けて~」


 牢番が戻ってきた。2人がかりで乱暴するのだろうか。その程度誤差の範囲だ。


 牢番が男に黄色い小瓶と注射器を手渡した。私はそれを見て戦慄する。男が受け取った小瓶は私がガンジールに渡していた小瓶だ。


「な、なにする気!?」

「ようやく素を現したな。何されるかわかるだろう? 手遅れになる前に知っていることを話せ」

「わ、私は…………」


 男が注射器に小瓶の中身を入れる。私だってガンジールには小瓶の中身を希釈して飲ませていたのだ。それでもガンジールは私の操り人形になった。その原液を注射される。どうなるか、想像もつかない。


 男が近づいてくる。ゆっくりとした足取りが恐怖を加速させる。逃げようと暴れるが、四肢を拘束され微動だにできない。


 それでも私は話すことはできない。『あの人』に逆らうことの方が恐ろしい。


「知らない! 何も知らない!! ……あ!」


 恐怖の余り、知らないと言ってしまった。男が持っていた魔道具が赤く光る。私が何かを知っていることが確定した。


 男はもう目の前にいる。私の腕に注射器があてられる。


「もう一度聞くぞ。知っていることをすべて話せ」


 逃げることはできない。ごまかしも聞かない。しゃべることもできない。私は詰んだのだ。


 幸いなことに、私が隠していた改造ヘロインはあれ1つだけだ。1回だけなら耐えてみせる。


「…………」

「そうか……残念だ」

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