第15話【開店初日4 援軍】
騒ぎを起こしていた俺達の前にミッシェルさんがやってきた。勝利を確信したのか、ガンジールとバルダは勝ち誇った表情を浮かべている。
ミッシェルさんはガンジールとバルダには見向きもせず、俺に話しかけた。
「ほんで? いったい、なにを騒いどるん? わての商会がわいろを受け取ったって聞こえたんやけど」
ミッシェルさんは以前と同じように白いヴェールで頭と顔を隠していたが、俺は、ミッシェルさんの視線に捕らわれた気がした。
ミッシェルさんの問いにバルダが答える。
「ミッシェル様! こいつが俺達にいちゃもんをつけてきたんです! 俺がわいろを受け取ったのを見たって!」
ミッシェルさんがめんどくさそうにバルダを見る。
「あんた誰や?」
「え、あ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません! アナベーラ商会支店の支店長を務めさせて頂いておりますバルダ=オーウェンを申します!」
「――あんたがバルダか! そうかそうか!」
ミッシェルさんが嬉しそうな声を上げた。会頭に名前を知られていたのが嬉しかったのか、バルダも嬉しそうな表情を浮かべる。
「なるほどなぁ。手間が省けたわ」
そう言ってミッシェルさんが手を鳴らした。すると、どこからか黒ずくめの男達が現れ、バルダを拘束する。
「な、なにをするんですか!?」
拘束されたバルダがミッシェルさんに聞いた。ミッシェルさんが再度手を鳴らすと黒ずくめの男達がバルダに猿ぐつわを嚙ませた。
「ん-! ん-んーん-」
「うっさいわ。まったく、手間をかけさせよってからに。あぁ、あっちもやね」
ミッシェルさんが2度手を鳴らす。すると、黒ずくめの男達が逃げようとしていたガンジールを拘束し、猿ぐつわを噛ませる。
「逃げ足と危険を感じる嗅覚
「えっと……どういうことでしょうか」
状況が理解できず、ミッシェルさんに聞いた。
「ああ、すまんすまん。あんさんには関係ない事なんやけど巻き込んでしもうたな。それにしてもやっぱり、あんさんの店は繁盛したなぁ。後で話したいことがあるさかい、閉店後にお邪魔してもええか?」
「あ、はい。もちろんです」
「よろしゅう。ほなまたな」
そう言ってミッシェルさんは去っていく。拘束されたガンジールとバルダは黒ずくめの男達が、連れて行ってくれる。
(何だったんだろ一体。バルダはともかく、ガンジールまで拘束して連れて行ってくれた。俺達のためって感じでもなかったし…………何だったんだろ)
俺が考え事をできたのはそこまでだった。ミッシェルさんの登場で固まっていた人達が一斉に動き出す。俺とミッシェルさんの親密な様子が伝わったのだろう。先ほどと異なり、列に並ぼうとする人であふれかえっていた。
「順番にならんでください! 横入りは許しません! 皆様落ち着いてください!」
これだけ人が多いと、横入りも何もない。最後尾がどこかもわからないのだ。押し合いへし合いで、あちこちで混乱が起きている。
(どう考えても俺一人じゃ対応しきれない! でもこれ以上混乱させるわけにはいかない)
どうにか1人1人案内して順番に列に並んでもらい、混乱を治めようとする。しかし、想像以上の人が押し寄せてきて焼け石に水だった。それに、そろそろ、今ならんでいる人で今日販売予定のリバーシは完売になりそうだ。整理券は用意しているが、どこから整理券を配るべきか判断するためには、在庫を確認しに行き、ならんでいる人を数えなければならない。とてもそんなことをしている余裕はない。
(どうする? どうすればいい? いっそのこともう整理券にしてしまうか? 別に200個ピッタリである必要はない。でも一度整理券にしてしまったら、今日はもうリバーシを販売できない。父さんが来るまで待つべきか)
その時、ようやく待望の声が聞こえた。
「――アレン! 待たせたな!」
「父さん!」
父さんは店の方から手ぶらでやってきた。
「リバーシは裏口から運び込んでおいたぞ。1000個確保できた! 明日までにあと1000個納品可能だ!」
「本当!? 助かった。列の整理を手伝って!」
「よっしゃ! 任せろ!」
明日の分のリバーシは確保できた。これなら、今ある在庫を売り切っても問題ないだろう。俺は声を張り上げる。
「皆様! リバーシですが、ただいま大量に入荷できました。今ここにいる皆様の分は十分にあります。ですので、どうか落ち着いて行動してください!」
『大量に入荷』という言葉に押し寄せてきていたお客さんが少し落ち着いたように見える。父さんが的確に案内してくれたのもあり、徐々に混乱が治まってきた。
後は、父さんに任せられそうだ。
「父さん、ここ任せた! 一度ユリと交代して、ユリを休ませてくる!」
「そうだな。わかった!」
すでに開店から2時間近く経過していた。想像以上の混雑に休憩の時間が全く取れていない。ユリは大丈夫だろか。心配になって足早に店内に戻る。
「――お待たせしました! リバーシ1セット1000ガルドです!」
ユリの声が聞こえる。その声からは微塵の疲れも感じさせなかった。
(疲れていないわけがない。無理させてしまったな)
「ユリ! お待たせ! レジ変わるから休んできて!」
「あ、ありがとう。ちょっとだけ休んでくるね」
そう言ってユリはスタッフルームに入って行く。その足取りは不安定でふらふらしていた。
(やっぱり無理させちゃったな。早急に従業員を補充しないともたないぞ)
その後、俺がレジを受け持ち、リバーシを販売する。15分程した時、ユリが戻ってきた。
「お兄ちゃん、お待たせ。次はお兄ちゃんが休んできなよ」
表情や声からは疲れを感じさせなかったが、明らかに無理しているのがわかる。
「まだ大丈夫だよ。それより、ユリは、ベーカリー・バーバルに行って3人分のお昼を買ってきて。買ってきたらそのまま食べていいよ。食べ終わったら父さんと交代して」
「あ…………うん、わかった。 行ってくる!」
そう言ってユリはベーカリー・バーバルへ向かう。長蛇の列ができている今、店を昼休憩にするわけにはいかない。向かいがパン屋で本当に良かった。
順番に昼休憩を取り、販売を続ける。その後もレジ、列整理、休憩をローテーションで回して何とか乗り切った。夕方になっても、列が途切れなかったので、午後4時30分になったタイミングで、俺は声を張り上げる。
「本日の販売は今おならびの方までとさせて頂きます。明日も10時から開店いたしますので、また、明日いらしてください」
この時間になったなら、整理券を配らない方が混乱しないだろう。せっかく作ってくれたユリには申し訳ないが、整理券の使用は見送る。
その後も何人か列にならぼうとする人がいたが、本日は終了したのでまた明日来てくださいとお伝えした。
「「「ありがとうございましたー!!」」」
結局最後のお客さんがリバーシを買えたのは閉店時間の17時を過ぎてからだった。列にならぶのを止めていなかったらまだ列ができていたかもしれない。
「お疲れ様! あともう少しだけ頑張ろう。今日はこの後、ミッシェル様が来られるから父さんとユリで応接室の確認とお茶の準備が問題ないか確認して。俺は閉店の準備をする」
「「了解!」」
露店を開いた場所に置きっぱなしにしていた案内板と店舗の外に置いておいた宣伝版を片付けてレジを閉めた。ちょうど閉店作業が終わったタイミングでお店のドアが開く。
「ごめんやす。店長はんはおります?」
そこには、金髪金眼の絶世の美女がいた。
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