第2話 26/29

「おつかれ、にしてもツウのおばあ様ってそんなに人気だったんだな」


会場に隣接のバルコニーで夜風にあたっていたツウにテオが水の入ったグラスを差し出す。


「にゃあ。その昔に社交界を騒がせたとは聞いていたがにゃ、ここまでとは私も知らなかったにゃあ」


「皆おばあ様を話の切っ掛けにしてたな。で、今日だけで何件の交際を申し込まれたんだ?」


「息子との見合いを含めると5件」


「30分に一回か、上々だな」


「にゃあにが先代夫人にも引けを取らぬ美しさーにゃ。ママの方がよっぽど美人にゃ」


「あ、そっちね。ほら、おかみさんも綺麗だけどさ、おやじさんの方がみんなの目を引くから」


「にゃー。解ってないヤツがここにもにゃ。お前さんもどうなんだ? ひっきりなしにご婦人に話しかけられていたが」


「僕は…… 自宅がスラム街の近くだって教えたらほとんどどっか行ったよ」


「にゃは」


「あと、何人かは、身なりからして貴族なんだろうな、家柄を聞いてきたからさ」


「教えてやったのにゃ?」


「もちろんさ。親はいない、孤児院出身だーって」


「にゃはー、やるにゃあ。みんなどんな顔をしてた?」


「目が笑ってないけど笑顔って出来るんだな、さすが貴族様。って感じかな」


「はにゃー、いい!いいにゃ! さすがのお前さんにゃ」


「一人は直ぐに化粧室に行ったよ」


「にゃはー! どいつにゃ? からかってやるにゃあ! ウシシ」


「背中にリボンのブルーのドレス」


「どいつにゃ?」と立ち上がったツウが窓越しに会場を覗き込んでしばらく「いた!」と言った。


「よし、いってくる!」


「ほどほどになぁ」


会場に戻ったツウが傍に居たウェイターから酒の入ったグラスを掻っ攫う姿がガラス越しに見えた。

テオはバルコニーから眼下に広がる街を眺めゆっくりとグラスから水を飲む。しっかりと時間をかけて飲み干した頃「せーんせ」と上気したような声色の声がして振り向く。


「やぁっぱりここにいたのが先生だったんだ」


右手に酒瓶を持ち、しっかりと顔を赤らめたチャーロだった。


「チャーロさんも呼ばれていたんですね」


「そーなの! 王城とかマジ始めてなんですけどぉ! 知り合いがいて安心しましたー!!」


「ん? 一人で来たの?」


「ううん! 組合長さんとぉ! リント姉さんとぉ! ほかにポロの冒険者が何人か! でも、みんな、あーしからするとレジェンドだからぁ、緊張しちゃってさぁ」


「なるほどね。じゃあみんな揃ったんだ」


「そーゆー事! そうそう、みんなそろったぞって剣士さん…… 王弟さまからご伝言!」


「また、伝言だね」バルコニーの手すりにもたれていたテオが歩きはじめる。


「そそ! 今回の報酬はコレ」と酒瓶を持ち上げ見せた。勢いでチャーロがよろめく。

「おっと」とテオがチャーロを支えた。


「あんがと、せんせ。いがいと筋肉あんだね」支えられたままのチャーロの左手がテオの首に巻きついてきた。


「そうかな?」


「それに今日の先生、なんかかっこいい」いいつつチャーロの右手がテオの腰に伸びる。酒瓶の口がテオのベルトあたりトスと触れた。


「そうか…… 」テオはチャーロの肩を掴み振りほどく「ありがとう、わかったよ!」そう言うと急ぎ会場の中へと消えていった。


「え、ああ。あーし置いてけぼり?」

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