第2話 20/29
テオが指さした先をツウが凝視する。
「よく見るナイフにゃあね」
「大量生産品って事か?」
「にゃあ、たしか王都の大手工房の商品にゃね」
「そうか…… 今回の迷宮内での事件に使われたナイフと同じデザインだ」
「にゃんと」
「その口ぶりじゃあ見てないのか、ナイフ」
「にゃあ、私が登庁した時には現物は鑑定所に移動中だったにゃ」
「写真は?」
「お偉いさんが我先に」
「そうか、なら仕方ないな」
「気になるなら触らしてもらうか?」
「いや、いいよ。憲兵が出入りしたら店もやりずらいだろ」
「そうだにゃ。あと、憲兵を悪者みたいに言うのはどうかと思うぞ」
「憲兵が急に来たら店主もびっくりするだろう」
「よろし…… くはないにゃあ、まだ悪者みたいにゃ」
「ゆっくりしているみたいだから」店内を覗き込むと店主が新聞を広げていた「邪魔しちゃあ悪い」
「そうだにゃ。それに憲兵詰め所に行けば資料もそろってる頃にゃ。同じ型のナイフも誰かが持ってるだろう」
「誰かが持ってるっていう事はそれなりに流通している物なんだな」
「そうだにゃあ。年に何回かは見るにゃ、逮捕者の所持品にとか」
「そうか」と言うとテオが歩き出す。ツウが「次の角を右にゃ」と言った。
王弟による視察が始まって小一時間ほどの後、テオとツウは憲兵隊ポロ分隊の分隊長室に呼び出されていた。二人が部屋の片隅に並び立って5分程、二人を分隊長室に案内した隊長の副官が部屋を出て3分程経った頃だった。
「来たにゃ」
ツウが背筋を伸ばした、テオもつられてネクタイを締めなおす。数人の足音がドア越しに隊長室に響く。
「例の二人はこちらに」という声がドアの直ぐ後ろでした、次の瞬間ガチャリとドアが開かれた。古めかしいデザインだが新品同様に磨き上げられた全身鎧の近衛兵が2人入室した、彼らのマントの紋章から王弟を護衛する兵士であることが解った。少しの間を置いて元帥服の男が現れる、続いて男の伴侶と思しき女性が入室した。
敬礼するツウの横で、男の顔を見たテオが目を見開き言葉を失っていた。
「今回もまた犯人逮捕に活躍をしたらしいな、国民に変わり礼を言おう」
元帥服の男がツウに声を掛け握手を求める。
「ハッ」普段よりすこし上ずった声で返事をしたツウが敬礼の手を降ろし握手に答える。
「憲兵として当然の務めであります」
男が元帥服の袖を2,3度揺らしながら「これからも励んでくれ」と言った。ツウが「はっ」と返事をする。その返事に満足したのかツウとの握手を終えテオの前に来た。
「青年、名を聞こう」
「テ、テオ。テオ・アインです」
「アイン君。活躍は聞いておる」元帥服の手がテオの前に差し出される。
「あ、ありがとうございます」テオが男の手を握る。握った瞬間、テオは強く引き寄せられ抱擁する形となった。突然の事に近衛兵の数人の鎧から金属音が響いた。
引き寄せられたテオの耳もとで男が小さな声で囁く。
「解っているとは思うが我々は初対面だ」テオにだけ聞こえる声量でそう言いながら、背中をバシバシと叩く「間違っても剣士さんと言うで無いぞ」と言った言葉は背中を叩く音でかき消され部屋に居た他の者の耳には届かなかった。
背中を叩いていた手がテオの肩に戻る、元帥服の男が押し戻すようにして二人は正対の位置に戻った。
「私のことは解るな?」
「はい、お会いできて光栄です。王弟殿下」
「うむ、今後も楽しみにしておる」
「は、はい、励みます。ありがとうございます」
王弟との握手を交わし終えたテオに、先ほどまでツウと談笑していた王弟妃が笑顔を向けた。
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