第2話 19/29
「お、よく似合っているじゃにゃいか」
憲兵隊が借りたホテルの一室で着替え終わって出てきたテオにそうツウが言った。
「王族に会うのに…… こんな服で大丈夫か?」
「問題無いにゃ。なに、食事を共にするってぇ訳じゃにゃいんだ。あくまでも視察だからにゃ、私がイブニングドレスで仕事をしていたらおかしいだろ?」
「たしかに」
「それににゃ、貸してくれた事務局長さんに失礼にゃ」
「ん、たしかに…… あ、クリーニング代は憲兵隊に請求していいんだな?」
「もちろんにゃ、というかホテルでクリーニング出してもらえ。宿泊代とまとめて憲兵隊に請求が行くからにゃ、そっちの方が後の手続きも楽でいいにゃ」
「なるほど、そういう事が出来るのか」
「そうにゃぁよ、さっきまで着てたやつも今のうちにクリーニングに出しておけ。借りた服で王都にかえる訳にはいかんからにゃ」
「りょーかい。どうしたらいいんだフロントに持っていくのか?」
「にゃー、テオは何も知らないにゃねぇ。そこに受話器があるだろう」
「ああ、フロントに話を通しとけと」
「にゃあ、これから出かけるから取りに入っておいてくれと言えばいい」
「ん。わかった」と言いテオが受話器に手を取った「もう、出るのか? まだ時間あるだろう」
「にゃあ。そのタイは色が気に食わん、新しいのを買いに行く」
テオがタイを見る。その時、受話器から「こちらフロント」と小さいがハキハキとした声がした。
「良いネクタイじゃにゃいか」
紳士服店から出て暫く2人は通りを歩いている、服屋ばかりが並ぶエリアを抜けるとパン屋からの香ばしい香りが届いた。
「ありがとう、でも良いのか」
「あぁ、今回の活躍に対する私からの気持ちだにゃ」
「憲兵隊からしっかり貰っているが」
「私個人としての礼だから、素直にうけとれ。それに王都にもどったら仕立て屋に行こう」
「ん? ネクタイなら他にも持ってるよ」
「もうすこしマシな服を持て。今のじゃディナーにもいけん」
「食事なら家で充分だよ」
「にゃー! わかってないにゃ! お前さんもそろそろ教壇に立ったりもするんだろう? 」
「教壇に? もう立ってるよ」
「にゃんと!?」
「先生の代打だけどね」
「にゃるほど」
「先生が巡検先で足止めくらったりした時だけだけのね」
「にゃぁね。もしかしてお前さん、さっきまで着てたあの服で授業したのか?」
「そうだよ?」
「はぁ、悪い事は言わにゃい。王都に戻ったら仕立て屋に行け」
「そんなにダメか?」
「だめとまでは言わにゃいが…… いやだめにゃ。アカデミーは入学に際して出自は問わないとは言え、貴族を始めとした社会的地位の高い家柄の者が多いからにゃ」
「たしかにそうだが」
「下手な恰好ではなめられるぞ?」
「学問に必要なことか?」
「バカにゃねぇ。アカデミーの運営資金はどこから出てる?」
「国から」
「だにゃ。お大臣やその取り巻きが世襲ではなくなってしばらくにゃ、とはいえ……」
「あー」
「わかってくれたか?」
「ああ、帰ったら仕立て屋にいくよ」
「よろしい」
その後しばらくの間、二人はただ歩いた。時たまツウが立ち止まり店を覗くなりした。店もまばらになり集合住宅が増え始めた。
「そういえば、逮捕したソルタイスだが」
「ああ、高所屋のソルだっけ」
「動機が判明したぞ」
「逆恨みか?」
「そんなところだ、本人曰く殺されると思った、だから殺した。との事だがな」
「そうか」
「被害者の妹を殺して、大森林からはるばるポロまで逃げてきて。ようやく冒険者以外の仕事も見つけて安定してきたって頃に被害者に見つかって呼び出された」
「なるほど。で、罠を仕掛けたって事か」
「そういう事にゃ、ソルタイスだがポロにたどり着く前は他の
「そういう事が可能なのか」
「可能にゃ、なりすましにゃんて昔はもっと多かったらしいにゃ。さすがに最近では減ったとはいえ、巧妙に偽装された登録証はそこそこの値段で売買されているからにゃあ、そのあたりの技術も持っていたのかもしれん。それに正式に発効された登録証の一部を巧妙に書き換えられたらそこらの職員じゃ解らんらしい」
「そのあたりの余罪も…… 」
「にゃあ、これからポロ分隊が調べる事ににゃるだろうにゃ」
テオが足を止めていた、古い銃砲店のショウウィンドウの前だった。
「にゃ、珍しいにゃ。お前さんが銃器にゃんて」
「いや、別に欲しいとか、そういう訳じゃないんだ」
「あれ」と、テオが指さした先には特価の札がつけられたナイフが転がっていた。
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