第2話 18/29

「ご苦労だったにゃ」


という声が聞こえたのは迷宮の2階層から1階層へ転移したその時だった。


「その声はツウか?」とテオは言った、1階層は2階層とくらべ暗く目がまだ慣れていないらしい。


「にゃあ、私だ。曹長もな、ご苦労」


「はっ」と敬礼をしたらしく布の擦れる音がテオの耳に届いた「中尉にお迎えに来ていただくとは光栄であります」


「にゃに、帰りの護衛が曹長ひとりでは荷が重いだろうと思うてな」


「はっ。私のみでも辛うじて警護可能かと存じますが少々不安でありました、助力いたみいります」


「にゃに2階層からこっちへ転移する前に片目を閉じて暗闇にならしておく。そんなことも出来ん奴と一緒では、いかに優秀にゃ曹長でも苦労は目に見えているにゃ」


「あちゃー、その手があったか。言っておいてくださいよ、曹長さん」


曹長が「申し訳ありません」と言ったがかぶせるようにツウが話し始める。


「ふん、普通は往路で気が付くもんにゃ。にゃ、お前さん目が慣れない事を言い訳にして曹長にイタズラするつもりだったのにゃら白状するがよろしい」


「そそそ、そんな事かんがえた事もないよ!」


「にゃにを狼狽えているのにゃ? 冗談だぞ」


「うーーろたえてなんか無いって! あの、曹長さん後ずさりするの止めていただいて」


「にゃははは。ま、目も慣れてきたみたいだしにゃ、行きますか。王弟殿下の視察まで時間も無いからにゃ」


テオが歩み始めた。


「そうだったな」ツウの後ろにテオ達が続く、「ん? 殿下を迎える準備とか大丈夫なのか? 僕なんかを迎えに来る余裕なんてないだろう」


「にゃーに、これも準備の一環みたいなもんにゃ」


「あー、もしかしてですが」


「なんにゃ?」


「僕は殿下に謁見しないよね?」


「なぜだ? するぞ?」


「ええぇー」わざとらしくうな垂れたまま歩く。


「今回、凶器を発見したのはお前じゃないか」


「いや、書類上は曹長さんでしょ?」


「あくまでも書類上はにゃ。ちなみに捜査協力者として正式に名前が残るぞ」


「それは良いけどさ、ほら正式には発見者は曹長さんなんだし。僕いなくても大丈夫でしょ」


「どうだ曹長。発見に至った経緯など、説明は可能か?」


「いえ。私一人では説明できかねます」


「だそうにゃ」


「いやー、ほら。ちゃんと説明できるように地上に出るまでにお話しますから。ね、曹長さん」


「その説明とやらは私がきくにゃ。それに曹長は規定によりこの後、地上に出た後は休暇にゃ」


「そんなぁ」


「もう40時間は迷宮にいるんじゃにゃいか? なあ曹長」


「はい、ソルタイスの逮捕後、直ぐに入迷宮しましたので、40時間は超えています」


「帰路に着く前の睡眠時間は?」


「はっ2時間ほど確保しました」


「よろしい、凶器発見後の手続きでいろいろ忙しかったものにゃあ。はぁああ、テオがもう半日早く凶器を見つけてくれれば、迷宮内で睡眠時間も確保できて、可愛い部下を王弟殿下の謁見に同行させることができたと言うのににゃあ」


「半日早くって、5階層について直ぐってこと? 無茶でしょ」


「にゃあ曹長、殿下に謁見したかったにゃあ?」


「はい、もちろんです。しかし規定に則り、ここは泣く泣くアイン先生に拝謁の栄光をお譲りするしかなく」


「ということにゃ、テオ、観念するにゃ」


「だぁああ、わかりました。僕が凶器発見の説明をすればいんですね」


「にゃ、わかればよろしい。あと、説明するのは聞かれてからでいいぞ。基本私の後ろにつったてればいいにゃ」


「わかった。聞かれるまで無言でいいんだな? 話しかけられないように祈っておくよ」


「ああ、そうしておけ。それと帰ったら風呂に入れ、髭もそった方がいいにゃ」


「わかった…… 服はどうしたらいい」


「……服か。考えてなかったにゃあ。まさか、1着しか持って来てないのか」


「下着や肌着やらは持って来たがな、上はこれだけだ。まさか迷宮に入るなんて思ってなかったからな」


「そうか、事前に知らせてなかったものにゃ。すまにゃい」


「ああ、まったくだ、事前に教えてくれればよかったものを」


「事前に迷宮に潜って調べて来てくれって言ったらお前さん来ないだろ」


「それは、そうだな」


「いや、そこはツウのためにゃらどこでも行くよとか言えよ。せめて迷え」


「ん? ああ、そうだな。ツウの為なら喜んで」


「おそいにゃ、ばーか」


最後尾の曹長がクスクスと笑っていた。

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