第2話 17/29
5階層に居た憲兵を始めとした捜査員が一堂に会した。下士官があれこれと指示を出す中、ひとりはカメラのフラッシュを焚き、ひとりはさらなる痕跡を求めて草むらを掻き分けた。
「詳しい鑑定はこれからですが、ナイフに付着した血痕と被害者の切創が一致するようで、凶器で間違いないかと。これから地上に運びますので、明日の昼以降には詳細が判明するかと」
かれこれ1時間ほど捜査の成り行きを見守っていたテオに曹長がそう告げた。
「そうですか。わざわざありがとうございます」
「お礼を申し上げるのはこちらですよアイン先生。よく見つけていただきました」
「たまたまですよ。探す場所が逆だったら見つけたのは曹長さんなのですから」
「それでもです。我々の捜査の穴を塞いだのはアイン先生なんですよ、感謝します」
曹長が深く礼をする。
「頭を上げて下さい。まだ犯人が捕まった訳ではないのですから」
「いや」と言ったのは、ここ1時間ほど複雑な表情をしていた組合長だった「犯人はすでに捕まっている」
曹長が驚いた顔で組合長を見る。
「どういう事でしょうか」
「犯人は別件で先週に俺が身柄を拘束した、投げナイフの手練れでな、奴もこのナイフを使っていた。今は近衛が預かっているはずだ」
「近衛ですか!?」曹長の目が見開く「なぜ!? いや、いつ!? なんの報告も受けておりませんが。近衛!?」
「まあ落ち着けって」組合長が曹長をなだめる「残念ながら俺に話す権利はねぇ」
「あーーー」と悲鳴に近いような感嘆を曹長がもらす「この1ヶ月なんだったのかしら」などとブツブツ言いながら立ち去った。
「あれですか。噂に聞く王族関連?」
「そういうこった、アインさん。下手に話せば俺も犯罪者だ」
「さしずめ、迷宮内に逃亡を図った政治犯を捕まえたとかですか?」
「まあ」眉をしかめる「そんなところだ。明日、もう日付が変わって今日か、王弟殿下が憲兵隊の視察に来るんだろう? 直接聞けばいい」
「おや、そう言うという事は政治犯は王弟殿下がらみですね?」
「おぉーっと、今の発言は忘れてくれ」
「ええ、もちろん」
「まあれだ。アインさんにならいろいろ話してくれるんじゃねえか? と、だけ言っておくよ」
「僕になら。ですか…… 」
「ああ、実際に会ってみたらわかるさ」
「僕は直接は会わないんですけどね」
「おっと、そうだったな。じゃあ時効になった頃に聞きに来てくれ」
「王族関連の緘口令って時効ありましたっけ?」
「さあね」にやりと組合長が口を曲げる「なんにせよだ。凶器が見つかって犯人も捕まってるとなれば迷宮の閉鎖も解かれるのは確実だ。俺からも礼をいうぜアインさん」
「いえいえ、たまたまです。それに組合長さんとリントさんの護衛が無ければ凶器にたどり着かなかったかもしれません。僕だけの手柄ではありませんよ」
「そう謙遜なさんな。宿に戻ろう、閉鎖解除の前祝だ、奢るよ」
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「そういえば」とテオがネコに問う。王都に戻ってより数日、久々の休日をテオは自室で過ごしていた。
「僕が凶器を見つけた時はどこにいたのですか」
「ずっと
「メイドさんに捕まっていませんでした?」
「メイド…… あぁ、あの無口な戦闘狂か」
「戦闘狂……」
「隙を見て逃げ出したのよ」
「そうでしたか。隙を見て」
「ああ、久々に緊張したのう」
「ネコさんがそこまで言うとは相当ですね」
「ああ、下手な魔族よりも強いぞ、あれは」
言い終える直前にネコが部屋の入り口を凝視する。
「どうしました?」
ネコの視線に誘導されるようにテオが振り向いたその時。コンコン、コンコンと訪問を知らせるノックが部屋に響いた。ネコは「噂をすれば」と歩き出し食器棚の下に潜り込んだ。食器棚の下から「悪意はない、開けてよい」とだけ聞こえてきた。
再びコンコンと戸が叩かれる。
「はいはい、今いきますから」テオは立ち上がりドアまで歩いた。鍵とドアチェーンを外す。
ドアを開けるとメイド服姿のメイドが立っていた、テオと目が合うとメイドが一礼した。
「こんにちは」とテオが挨拶をする、メイドはニコリとそれが挨拶の変わりとばかりに笑顔を作った。
ご用件はとテオが言い終える直前、メイドが右手を差し出す、その手には「招待状」と書かれた封筒があった。テオはしぶしぶといった表情で封筒を受け取り裏を確認する、封蝋の紋章から王家の者が出した手紙であることが伺えた。
「受け取り拒否はさすがに…… 」
先ほどまで廊下に居たはずメイドの姿は忽然と消えていた。
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