第2話 14/29
四人は次の目的地に向かって進んでいた。被害者の剣が発見された場所を後にし、まっすぐと危険地帯を抜け、安全地帯にある集落に差し掛かった。リントと曹長が横並びで話しながら歩いている後ろをテオと組合長が並んで歩いていた。
「で、アインさん。何かわかった事はないのかい?」
「わかった事、これまでにですか?」
「ああ、あの崖下でのあんさんの推測は見事だった。たしかに俺ならそうするよなって事ばっかりだった。ま、俺は魔法がつかえねぇから剣は手放さねぇけどな」
「やっぱり、そうですよねぇ。剣は手放さない…… わかった事は?と言われますと。より分からない事が増えたってとこでしょうか」
「おや? そうなのかい。明日は朝早くに出発すると聞いているが、ゆっくり捜査してくれて構わないんだぜ? ギルドとしても協力するよ、迷宮の封鎖は早い事とかなきゃなんねぇ」
「お気持ちはうれしいのですが…… 明日は夕方に王弟殿下が憲兵隊に訪問とかで」
「なるほど、明日の夕方ね。それまでにアインさんも地上にいる人間に報告する必要がある訳だ」
「そういう事のようです。お力になれず済みません」
「謝るこたぁねえよ。それよりもアインさん、あんたの方は大丈夫なのか? 殿下への報告がよりわからなくなりましたじゃ話にならんだろう?」
「まあ、そうなんですけど。僕は直接会わないですからね。怒られるにしても、僕に迷宮に行けと言った友人か、その上官か」
「なるほど…… 」組合長がなにかしらの言葉を飲みむ。
「それに、王弟殿下の謁見をもってこの事件は捜査終了となるのではないでしょうか? 迷宮の一部封鎖の影響で王国内での魔石の高騰は毎日朝刊の一面を飾ってますからね」
「噂だとそうだな。ま、俺が聞く話では、5階層は引き続き閉鎖らしい」
「では6階層と7階層の閉鎖は解かれると?」
「そういうこった。俺としてはいっそ全部の封鎖が解除ってのが楽でいいんだがな、迷宮の閉鎖は人手が取られてかなわん」
「そうですよね。事務局長さんも忙しそうにしてましたし、この5階層で会った
「そうだろ。しばらくはまともに眠る時間さえ取れなかったからなぁ。憲兵さんからはやれ護衛だ、やれ討伐だ。こっちは救出作戦でも忙しいってのに、てんやわんやだったよ」
「救出作戦ですか? 資料にあったかな?」
「捜査資料ってやつかい、そっちの資料には載ってねえんじゃねぇかな。事件と無関係とは言わねえが、あくまでも管理組合の仕事だったからな」
「詳しくお伺いしても?」
「もちろんだ。救出っつても7階層まで現役最強の魔女を」組合長が前を歩くリントを指さす「お迎えにあがっただけだけどなぁ」
「リントさんを?」
「ああ、テルトスが亡くなっちまっただろう。当時はペアで活動してからなぁ、5階層に着いた時にまっさきに探したんだ」
「一緒に戦闘で亡くなったかもと? 」
「そう、まあ二人ともおっちんじまうなんて事は考えてなかったがな。どうも事情を聞くとテルトスだけ5階層に来たていたらしい。防具を壊したとかで修理にな」
「先ほどの鍛冶屋さんにですよね。資料で見ました」
「ああ、ここいら一の鍛冶屋でテルトスの行きつけだからな。まあ、テルトスが5階層にいた理由は解った、じゃあ相棒のリントはどこだ? 探せぇ! ってなった時に情報が入った。どうも7階層にいるらしいってな」
「それで迎えにいったと」
「そういうこった」
「どなたがお迎えに? 組合長さん自らですか?」
「ああ、俺ともう一人。普段はギルドの食堂で働いてるおばちゃんだがな、特別に付き合ってもらった。リントと仲がいい奴でねぇ、テルトスの死をリントに伝えるのに来てもらった」
「そうですか」
「あぁ、リントの奴は俺が7階層の休憩所に現れた時点で悟ったみたいだがな…… 俺の顔を見るなり言ったんだ。あぁ、死んでしまったのねってな、悲しそうな声だったよ」
「つらかったでしょうね、婚約者を亡くしたのですから」
「まあ、何日も5階層から戻らねぇってことで、ある程度の覚悟はしてたみたいだがな」
「そうでしたか…… 」
5階層の高い天井に埋め込まれた大きな水晶の色が変わっていた、外の色を反映してか夕焼けのような色で輝いていた。
「そういえば組合長さんが現れるまで、何日もリントさんは7階層から動かなかったんですね?」
「ん? どういうこった?」
「いえ、遅いなら5階層に探しに行くなりしなかったのかなぁ。と、思いまして」
「ああ、そうか。アインさんは知らねえか。6階層にはな魔法を使えなくするモンスターが出るんだ。それで後衛職の6階層での一人歩きは
「なるほど、それで救出作戦と言ったんですね」
「ってぇこったが、改めて話すと作戦っていうほどのことでもねぇなぁ」
「まあ、ご自身でも迎えにいっただけって言ってましたしね」
「はは、そうだったよ」
「でも、納得しました。事件当初の資料では何人かの魔法使いが容疑者としてあがっていたのですが、ある日の資料からは容疑から外れてました、理由を見ると事件当時7階層に居た為としか書いて無くて。どういう事なんだろうと疑問だったので」
「あー、よく憲兵さんに聞かれたよ。6階層がそんなに危険なのかってな。魔法使いや僧侶なんかの類は一人じゃ出歩かない、ましてや7階層にいるってぇことはだ、それなりに死線を超えてきた連中だ。そんな無茶をする奴は俺はしらねぇな」
「その上、迷宮に居ていた腕の立つ前衛は全員がアリバイありですからね」
「そうそう。なんだい、そのアリバイってやつは。憲兵さんの口からよく聞いたがね」
「アリバイですか?正式には現場不在証明って言ったかな。要は犯行があったであろう日時に誰かと居たとか、現場に到底到達できないところに居た証明が出来たとか、そんなところです。組合長さんも聞かれたでしょう? 犯行があったらしい日はどこで何をしていたーって」
「あー聞かれたなぁ」
「でしょう。普通は遺体が発見された日の前日の夜からその日の朝までどこに居たかがなんて証明できる人、少ないんですけどね」
「普通はそうだよなぁ。ま、でもそこが迷宮らしいんじゃねぇか? 6階層は安全地帯が無えからな、休憩で仮眠をとるにも見張りを立てなきゃなんねえし、誰かが居なくなってたら大騒ぎだ。それに、7階層の安全地帯は狭いからな、休憩所もあるっちゃあるが大部屋で複数の
「迷宮らしい、確かにその通りですね。7階層の休憩所の個室はリントさんみたいにソロの女性用、ところがソロの女性は軒並み魔法使いか僧侶で5階層へ行くには前衛職の助力が必要になってくる。だけど前衛職のアリバイはその時点で証明済み」
「証明済み? そうだったのかい? 」
「ええ、被害者の傷の形状からナイフか剣身が細目の片手剣が使用されたと判明していましたので真っ先に前衛職の中から数名が容疑者として浮上したのですが」
「なるほど。そいつらのアリバイ、だっけか? を証明したのもまた前衛職のだれかさんだった…… てところかい? 」
「まさしくですね。とある剣使いの冒険者の証明を格闘家が、別のナイフ使いの冒険者の証明は槍使いが、それぞれをまた別の冒険者が証明していました」
「誰かが犯人を庇って嘘をついてるって可能性は?」
「憲兵隊も最初はそう考えていたようなのですが、とある冒険者の証言は嘘だったと仮定すると必ずどこかに綻びが生じるようでして。僕も報告書を呼んだ限りではですが証言に嘘はなかったようでした」
「綻びっていうのは例えばどんなのだい」
「たとえばですか? そうですね、リーダーが槍使いで剣士が一人と魔法使いが二人、女性だけの
「ああ、エルギリのとこな」
「ええ、そうですエルギリさんのパーティー。彼女たちの小隊は事件当夜7階層の休憩所の大部屋で仮眠をとっていました。最初にメンバーの一人の剣士が疑われましたが、夜から朝にかけて小隊員全員で仮眠室に居たと証言がありました」
「だが憲兵さんたちはその剣士を庇ってエルギリんとこの小隊員が嘘をついたと疑った」
「ええ、そうなんです。ですが別の
「なるほど、エルギリたちが嘘をついていたら、この証言はどうなるんだって話になるわけか」
「そういう事ですね。この時に肩を叩こうとしたという眠っていた女性が本当にその女性剣士だったかという事は疑問が残るのですが、話しかけるタイミングを狙っていたため目を離す時間は僅かだったとも証言していますので信憑性は高いと憲兵隊は判断したようですね。その他にも似たような証言が数多と」
「あっちを嘘と決めつければこっちの証言はどうなる、こっちを嘘とすればそっちは? てな感じかい」
「まさしくです。みなさん引き抜きか、賭けの清算かで話しかけた、というところが冒険者らしいですね」
「ははっ、間違いねぇ。まあ、迷宮は広いが冒険者のコミュニティは案外と狭いもんよ」
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