第2話 8/29

その後は戦闘も無く2階層に通じる転移魔法陣にたどり着つく、着くやいなや2階層に移動した。


「皆の者、ご苦労であった」


1階層同様に2階層の転移魔法陣が置かれた小部屋は天井が低く、剣士の声がこだました。


「特にアイン君、初めての迷宮にも関わらず、強行軍についてこれるとは驚いた」


「え、そうだったんですか」


「シシシ、センセー気づいてなかったのー? ふつーはもう2回くらいは休憩するもんだよ」


テオが「えー」と目を丸くしている横で「チャーロも案内ご苦労」と剣士が労いの言葉をかけた。


「2階層以降、次の階層への転移魔法陣へは安全地帯を行く。とはいえ1歩踏み間違えればそこは危険地帯となるからな、以降5階層までは私の傍を離れぬように」


放心状態のテオを剣士が見つめる。


「アイン君、聞いておるか?」


「は、はい。すみません」


「流石に疲れがでてしまったかな。ここで小休止とする」


10分ほどの休憩の途中、剣士が昨日の事件についての話をテオに求めた。


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「あの。ネコさん、話の途中ですみません」


テオはベッドで布団にくるまりながら聞いた。


「どうした?」


「2階層にはどうやって付いて来ていたんですか? 1階層は大門が閉まる前に飛び込んできた影が見えたのでわかりましたが、あのとき魔法陣に乗ってましたか?」


「ああ、うぬらが蝙蝠どもを蹴散らした後メイドに捕まっての。この時はスカートの中じゃ」


「スカートの…… 」


「あやつなかなかにやりおる」


「ネコさんを捕まえるなんて相当ですね」


「我も注意を怠っておったからのう、気が付いたら後ろにいてな、ヒョイと抱きかかえられた」


「ネコさんが後ろを取られるなんて…… 」


「であるな。いつぶりだ?」


猫が右前足を鼻先に当て考え始めた。


「少なくとも僕は初めて聞きましたね」


「うむ。この姿になってからは初めてかもしれんのう」


「メイドさん…… 相当のやり手では? 」


「であるな。うぬらが蝙蝠どもと戦ってどれだけ消耗したか、消耗具合では我が一肌ぬがんと、そう見定めておった所であったのう」


「そうなんですね、心配してくれてたんだ」


「うむ。しかしな、その心配も不要であるなと。抱きかかえられながらそう判断したわい」


「そうですね」はははとテオが笑った「ネコさんの後ろをとれる猛者ですからね」


「うむ。その上とてもよく気がつく。うぬは知らぬだろうが、あのメイド。2階層以降は常に危険地帯の境界側を歩いておった」


「え。そうだったんですか?」


「やはり気が付いておらんかったか」


「お恥ずかしながら」


「まあうぬはあの剣士モドキに事件の経緯を話すので必死であったからな、しかたがあるまいて」


「はは、そういえばそうでしたね。それに飛んでくる質問がまた鋭いから」


「であったな。うぬも答えに困っておった」


「そうですね。何故その時に屋上に登ろうと思ったのか、だけで3回は問われました。事務局長さんに魔道具を使ってみないかと言われたからですと答えても」


「それは答えになっていない。で、あるからのう」


下宿の外で野犬が鳴く声が聞こえた。


「なんと答えればよかったのでしょうか…… 」


「ふむ、それは剣士モドキが納得する答えという意味かのう?」


「いえ…… やめましょう、そんな事を考える必要は無い。会う事はない人でしょうからね」


「であるな」


「ネコさんは昨日の続きを?」


「ああ」


「昨日はどこまで読んだので?」


「いまから犯人の回想が始まるようだ」


「では、終盤だ。もうすぐ感想が言い合えそうですね」


「であるな。良い夢をの」


「ありがとうございます。ネコさんも良い夜を」


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テオが前日の事件のあらましを剣士に語り、チャーロが自身の夢などを皆に語るなどしながら一行は5階層に到着した。剣士が口を開く。


「予定より1時間は早く着いた。これもアイン君の適応能力のおかげだ」


「いえいえ、そんな。剣士さんのエスコートのおかげですよ」


「おう、全くその通りだな」ハハハと一行が笑う「して、チャーロよ」


「あーし?」


「うむ、この階層の鍛冶屋に頼んだ剣があるのだがな、試し切りをしながら地上に戻ろうと思っておるのだが…… 」


「行きます! ついて行きます!」


「2時間後にここでよいな?」


「はい! ダッシュで換金行ってきます!」バシンと背嚢を叩いた。


「換金?」


「そそ、いまね」ぐいとチャーロがテオに近づく「5階層ね食料がメッチャ高く売れるの!」


それだけ言うと「じゃ」とチャーロが走りだした。しばらく見送っていると「剣士さんあとでねー、センセもありがとねー」とこちらを振り向き手を振った。


「これだけ歩いたのにまだ走れるんだ」とテオが手を振り返す。


「しかもあれだけの荷物を背負ってだからな。魔素に当てられて持久力が付くという珍しいタイプだろうな」


テオが横を見ると剣士が手を掲げていた。


「では行こうか」


「ええっと、どちらに?」


組合長ギルドマスターを探しにだ」


「あ、そうか」


「うむ、事務局長の依頼としては君を組合長ギルドマスターの元に届けてほしいというものだったからな、彼を中心に憲兵や警察官が行動をしているらしい」


「そう、そうでした。僕はここに捜査をしに来たんでした」


「ははっ! 忘れておったのか!」


「いーえいえいえいえいえ、5階層にたどり着いた達成感で…… その…… 」


「やはり忘れておったのではないか」はははと剣士が豪快に笑った「5階層は半分近くが安全地帯でモンスターが少ない」


「ええ、地上で聞きました」剣士が歩き出す、テオも続いて歩き始めた「モンスターは弱いが質の良い魔石を落とすって」


「モンスターが弱い? 少し語弊があるな」


「え? そうじゃないんですか?」


「うむ、4階層のモンスターを屠る実力があれば5階層など簡単であろうがな。3階層で苦労している冒険者であれば苦戦は必至だろうな」


「あぁ、そういう意味でしたか」


「うむ、さらに言えばな。5階層からは好戦的なモンスターが増える傾向にある」


「好戦的、ですか」


「4階層まではな、むこうから攻撃してくるモンスターは少ない、稀だ。こちらからせぬ限り、向こうも攻撃してこない」


「なるほど、でも1階層で戦った……」


「大蝙蝠か、あれは普段は3階層にいるモンスターだがな」


「らしいですね」


「普段は羽を畳んでどこかの木にでもぶら下がっている状態なら害はない」


「なるほど、すでに飛んでいたから」


「うむ。それも群れで飛んでおったからな、すでに何者かと敵対しておった一団の一部がはぐれてきた群れであろうな」


「そういう事ですか」


「そうだ。で、我々も仕方なく交戦状態となった」


「あっという間でしたけどね」


「うむ、数も少ない方であったからな。しかしな私とて5階層のモンスターとなれば簡単ではない、また私にくっ付いて来い。パンツのごとくな」


「ええ、見失わないよう気を付けますよ」


「うむ、その心がけでよい」


10分ほど歩くと木で作られた数件の建物が見えてきた。


「剣士さんの腕前でも5階層は難しいとなれば、他の冒険者はもっと強いのですか?」


「うむ、難しい事を聞くのだな」


剣士が腕を組み考え出す。


「ふむ、私の剣技は対人戦を重きにおいておるからな」


「対人戦ですか…… 」


「対モンスターとなれば場数をこなす冒険者の方に分がある、先日も6階層の階層主ボスモンスターに挑んだが」


「おや」


「分単位の時間をかけてしまった」


「勝ったんかい」


「ん? なんと言った」


「いえ、重要な事では」


「そうか? まあ、亡くなったテルトスであれば…… そうだな、ボスとタイマンができれば秒殺よ」


「そんなに強い人だったんだ…… 」


「ああ、このポロ迷宮に限れば組合長ギルドマスターに次ぐ実力であろうな」


「ちなみに剣士さんは何番目ですか?」


「私か? 対モンスターならば敵わん者も多いがな、対人戦となれば組合長ギルドマスターと相対してもなんとか刺し違えてみせよう」


「はえー」


「アイン君。もしかして私を疑う事はせんであろうな?」


「しないですよ」はははとテオが笑う「もしあなたが犯人なら僕から昨日の話を聞いた後、ここまですんなり連れてこないでしょう。チャーロさんと僕のふたりを迷宮に置き去りにするなりできたはずです」


「ふむ、確かに一理あるな。では、チャーロと別れたこのタイミングであればどうだ?」


「このタイミングで僕をおそえば剣士さん、あなた自身が犯人であることを自白しているに等しいですからね、おやめになった方がいい」


「そうだな。ふはは、まったくだ」


あれこれと会話を重ねながら建物を数軒通り過ぎた。


「すまないがアイン君」突き立てた親指で店の入り口を刺した「鍛冶屋に先に入ってもよいかな」


「ええ」とテオが頷く。


剣士が方向を変え建物に入らんとした時、戸が開き長身の男が出てきた。


「おや?」


長身の男が剣士の顔を見て言う。


「おお、ここで会えるとはな、探す手間が省けた」


剣士が握手を求めんと手を差し出す。


「あんさんがここに居るってことは」そう言いながら長身の男は握手を返した。


「なるほど…… そちらがアインさんかい?」


長身の男がテオの顔を見ると言った。

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