第2話 7/29

一行は再びダンジョン内を進み始めた。

剣士を先頭にテオが付かず離れずの位置をとっている。チャーロが次に曲がるタイミングを伝えに剣士の傍まで走り寄りしばらく、テオが歩くポジションに戻ってきた。


「おかえり」とテオが水筒を差し出す。


「あんがとっ! センセも歩くの慣れてきたね」


「そう? かな」


「そーだよぉ。剣士さん、さっき角まがってからスピード上げたの気づかなかったんだ?」


「えっ。ぜんぜん気づかなかった…… 」


「やっばしー」キャハハとチャーロが笑った「やっぱ、出来る人はあぁじゃなくちゃねー。はぁあー、剣士さん、もっと若かったらなぁー」


「若かったら?」


「そそ、若かったら。あーしの魅力でエイ! からの玉の輿げっとん! 的な?」


「玉の輿ねぇ。やっぱ凄い人なの? 剣士さん」


「うん! ぜぇーったいヤバい! だってさぁ、聞いて! さっきの大蝙蝠もさぁ」バンバンと背嚢を叩く「魔石嚢もだしぃ、他のさ、素材で売れるとこは傷つけずに急所だけをズバーだよ。ヤバくない?」


「ヤバいね」


「っしょー! でも、若い時は苦労したんだろーなーって」


「そなの? 」


「ほらー! 大蝙蝠ってさ、本来は3階層のモンスターなんだけどさぁ、3層の中ではドロップがザコじゃん?」


ザクザクと2人の足音が響いた。


「あ、センセは知らないか。まぁ、なにが言いたいかっていうとぉ」


「苦労するモンスターの割には身入りが少ないって事?」


「そそ、そーいうこと。にも関わらずよ、あんだけ簡単にバッサバッサ堕とすって事はよ。パーティに恵まれず縄張り争いは弱かったって事よ」


「なわばり?」


「そーなの! 昔はさぁ、割りのいいモンスターが出現するポイントっての? それを囲ってたパーティが強かったわけよ」


「あぁ、だから縄張り」


「そーなの。だから昔はもっとパーティ毎で揉めてたんだって、それこそ殺しも毎日」


「毎日! 」


「そだよー、ほぼ毎日だったんだってー。だんだん冒険者が減っていってー、困ったギルドはどうしたか知ってる?


「王命で迷宮内での殺しを禁じたんじゃなかったっけ? 」


「それは最近だよー、あーしが冒険者になるちょっと前。今話してるのはもっと前だよー」


「知らないなー」


「せーかいわぁ。同じパーティからさ、同じモンスター由来の素材の買い取りが続いたらよ、買い取り価格下げたんだって」


「なるほどなー。でも、それだと強いパーティどうしで話し合って…… 」


「そーなのよ!次第にトップのパーティだけで縄張りをグルグルしだしたんだって」


「だよなぁ、誰が考えてもそうなるよな」


「でもそれじゃあ下の世代が育たないからって言ってさ、ギルドも対策するわけよ。で、どうしたと思う?」


「ある程度に強いパーティは解散させたとか?」


「ブブー。でもま、解散させたようなもんかな?」


「ええ? なんだろ?」


「はい、時間切れー。正解は税率を変えたでしたー」

「あぁ税率」


「そそ、ベテランのパーティからはしっかり税金とるの。でもソロの冒険者の税率はそのままにしたんだって、そしたらみんなソロで登録しなおしたのよ」


「でも、それだと元のメンバーだけで潜れば一緒じゃない?」


「まぁね、最初はそうだったみたいよ。でもさ、だんだんとパーティの縛りっての? それが無くなってったんだって。気づいたらさ、仲の悪かったパーティのメンバーどうしがいつの間にかさ、よく一緒に潜る相棒? みたいになっちゃったりとかしたみたいよ」


「なるほどなぁ。ま、縛りが無くなればそうなるもんかな」


「そりゃぁね。だってほら考えてみ、パーティによったらリーダーだけが報酬がっぽりみたいなパーティもあったワケよ、そんなパーティーから実質解散していったワケ」


「あーそういう事。人材の流動化だ」


「りゅーどうか? ま、たぶんそーゆーこと」


「ほんとに分かってます? 」


チャーロが開き直ったように「わかってない」と言い2人は笑った。


「にしてもいやに詳しいですね」


「っしょー? ほら、私ってこの街の冒険者の中では可愛いほうじゃん?」


コツコツコツと二人の足音が響いた。


「おい! なんか言えよ!」


「あ、ごめんごめん。可愛い可愛い」


「ありがと。っからねぇ、ベテランのおにーさん達がさぁ、ご飯とか奢ってくれるわけさー。でぇ、聞いても無いのにペラペラペラペラ、昔の俺は凄かったんだぞーって」


「あー。いるいる、そういう人いるよね」


「わかってくれるー? まあ、あーしもさ今後の事、考えたらさ。ご飯だけ奢ってもらって、はいバイバーイ、なんてできないからさー。すぅっごーいとかあこがれますぅーとか言うワケ」


「お、今のもう一回さ言ってよ」


「なにが」


「凄ーい。と、憧れますー。可愛かったよ」


「え? マジ!? すぅっごーい! あこがれますぅー!」


コツコツと足音が響く。


「おい! なんか言えや!」バシンとテオの肩が叩かれた。


_

__

___


「ネコさん、今のくだりいります?」


ポロから戻った次の日、テオがアカデミーから帰り夕飯を食べていた。


「もちろん」


「もちろんかー」


われ旧友ともに聞かせるにあたり必要と考えたまでよ」


「そうですか? あまり事件に関係もないような気が」


「そうかのう? そう言われてみればそうであるのう」


「それに、普通に聞いてましたが。勇者様にお話されたのは1日目の事件の事だけじゃなかったんですね」


「そうだな。迷宮内の事件も犯人は死亡していたとは言え、特定に繋がった発見をうぬはしたのであるからな、新しい友はこのように我を楽しませてくれる奴じゃと。我は退屈しておらんぞと、そう伝えたかったのかもしれんな」


「そうですか、ネコさんがそう言ってくれると嬉しいですよ。あ、あと、まだ犯人ではなく容疑者です」


「そうであったな、ヨウギシャ、ヨウギシャ。して、何がちがうのだ?」


「そうですね、僕も専門家ではないのでわかりませんが、確定的な証拠が出ていないので、まだ容疑者みたいですね。とはいえ凶器自体は見つかったので時間の問題でしょうが」


「そういうものかの?」


「そういうものみたいです。人によっては裁判にかけられて罪が確定するまでは犯人と呼ばない、なんて言う人もいるくらいですから」


「そうか、言葉は慎重に。であるな」


「えぇ、言葉は慎重に」

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