第1話 11/15

手錠をはめられたことで観念したらしいシューマは軍曹に抱えられるようにして馬車に乗せられている。


「テオー!!」


石畳の道を歩きながら4階の角部屋に向かってツゥが叫ぶ。


「はいはーい」


暫くしてテオがひょこっと顔を出した


「にゃ!何故屋上にいるにゃ!?」


「事務局長さんがこの街でしか見られない魔道具だから見てけーって! ついでに試しに使わしてもらってるー!」


「呑気な奴にゃ」


「なんか言ったかー!?」


「いやー!にゃにもー! 容疑者を連れて詰所までいくからー!」


「りょうかーい! あ、ネコさん邪魔ー? 」


「すまんにゃー! 急ぐから一旦ギルドの受付の人に預けるにゃー!」


「おっけー! 僕もすぐ降りるよー 」


「ゆっくりでいいにゃよー! 詰所には曹長も同行するから馬車は満席にゃー! 車を手配しておいたから後から来てくれー!」


「後からでいいんだなー! りょうかーい! 気をつけてなー!」


「おまえもにゃー! 落ちるんじゃないぞー!」


「おおー! 意外と便利なんだよこのブーツー! 落ちる方が難しいよー! 」


「そーかー! でも、初めて使う魔道具にゃからー! 魔力切れには注意しろよー!」


「ありがとー! 気をつけるー!」


「じゃにゃー!」


「あとでなー!」


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「ふむ、うぬはここであれを見つけたと。うぬが車を待たしてまで、向かいの魔道具店に行ったのにはすでに理由があったのだな」


「…… スピー」


列車は山道を行き始めて暫く。客室に備え付けの椅子に座ったテオの首は斜めに傾いている。


「寝ておるか。まったく、人間というのはこのガタゴトいう音の中でも寝られるとはのう」


その時、列車がトンネルに入った、走行音がトンネルでこだまして音が大きくなる。

ゴーという音に反応したのかテオが「フゴッ」と片目だけ開いた。


「起きたかうぬよ、そこでは首を痛めおろう、寝床に行くが良い」


「あ、すみません。いつのまにか寝てしまった」


「ほれ立て、そしてベッドへ行け」


「いいえ、ネコさん。少し寝たらすっきりしましたから」


「話の続きを所望するのか?」


「ええ」


うぬも知っておろうが我は地下が嫌いだ」


ネコの尻尾がフリフリと動く、それを見てかテオは頷く。


「行きと同じ線路みちであれば暫くはトンネルを出たり入ったりであろう」


「あ、そうなんですね」


「ウヌは往路も寝ておったからのう、知らぬは道理なり。平野に抜けてトンネルの無い地帯に差し掛かれば起こすゆへ」


「そうですね。では、今はお言葉に甘えて昼寝します」


「うむ、我もそれが良いと思う」


___

__

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「にゃ! テオ! 遅かったじゃにゃいか!?」


第三取調室と書かれた部屋から出て来たツウが言った。


「ごめんごめん、ギルドの向かいの魔道具店に行ってたんだ」


ドアの横の長椅子に座るテオが答えた。


「んにゃ、あのブーツ気に入ったのか?」


「そんなんじゃないよ」


「てかよくここって解ったにゃぁ、ロビーで待っているものと思ったにゃ」


「そのロビーで待ってたら、軍曹さんに出会ってね」


「にゃぁる」


「で、その尻尾の動きだとハズレだった?」


「にゃーー! ハズレにゃ! ハ ズ レ ! そもそも拘束の魔法が覚えたてで迷宮内でしか使えないってなら始めから言えってヤツにゃ!」


「言う暇なかったんじゃない?」


「にゃ」


「そう睨むなよ。でも、なんで逃げたんだ?」


ボスンとテオの横にツウが座った。


「脱税にゃ、いわいる申告逃れだったにゃ」


「あぁ、冒険者登録の不正申告だっけ。自分の実力を過小評価して申告して税の優遇をどうとか」


「いんや、もっと悪質にゃやつにゃ」


「と、いいますと?」


「スクロールってしってるか?」


「あれだろ? 魔法陣が描かれた巻物だろ?」


「正解にゃ。ポロの迷宮はその昔、スクロールの産出で有名だったにゃね」


「あぁ、今みたいに魔石を使った魔道具が一般的になる前の話だな」


「そうにゃ。ま、今でも迷宮でドロップするスクロールは物によってはそれなりの値段で取引はされるにゃ」


「で、それがどう脱税になるんだ?」


「2枚で1組ににゃるスクロールがあるのは知ってるか?」


「知ってるよ、よく片方だけでジャンク屋に並んでる奴な」


「そうにゃね。ああいうのは大概が迷宮で見つけて、持ち帰ったはいいものの鑑定したら一対のスクロールの片割れだったって奴にゃ」


「へー、そうなんだ。片方無くした奴が金に困って安売りしたんだと思ってたよ」


「まぁ、そういうやつもゼロでは無いとは思うけどにゃ。まぁ、ごく稀に揃って迷宮から持ち帰られるスクロールもあるんだにゃ」


「あぁ、あのメチャクチャ高価たかいやつな」


「にゃ。高額って事はギルドでの査定額もそれなりにゃ。片割れのスクロールと一対が揃ってるスクロールでは文字通り桁が違うにゃね」


「あー」


「お、わかったにゃ?」


「ギルドには対のスクロールの片割れをドロップアイテムとして申請、少額の報酬を受け取る。後日にもう片割れを申請し受け取る。対でそろったスクロールだと報酬も高額な分、税金とギルドの取り分もバカにならないからな。少額で申請して対が揃った所を道具屋に高値で売る。で、どうだ?」


「ブブー、それは五十年前に流行った手口だにゃ。国も馬鹿じゃにゃいから対策済みにゃぁよ。まぁ、惜しい線ではあるかにゃ」


「50年前…… 」


「黒髪の勇者が迷宮内の転移魔法陣を発見した頃にゃね。」


「そんな昔なのか」


「にゃ。そんな昔からポロの迷宮は栄えていたにゃね。で、テオは迷宮内で店をしてる奴らが居るのはしってるにゃ?」


「曹長さんが言ってたな。でも、迷宮内の商店ならギルドの管轄とかじゃないのか? 不正は難しいんじゃないか?」


「にゃ、正確にはギルドと商工会の共同管理にゃ。不正があれば出入り禁止にゃからね、そこまでわかりきった悪さはしないにゃ。問題は納品業者、いわゆる運び屋って呼ばれているヤツらにゃね」


「なるほど、そうか」


「にゃーね、モンスターがうじうじゃいる迷宮を最低限の装備で商品を運ぶ。護衛の冒険者が付いているとはいえ命懸けの仕事にゃ。一般的にはギャンブルに嵌まってアホみたいな借金作って、首が回らなくなったヤツが行きつく仕事と思われがちにゃが、中には悪さしてマフィアから逃亡中のヤツとかも居るにゃ。要は金に困ってる連中にゃ」


「そういう奴に金を握らして、スクロールの片割れを迷宮外に持ち出させる」


「そーにゃ。ギルドも商工会もそんな奴らの荷物までチェックは行き届かにゃいからにゃ。後は街の酒場とかで受け取る、追加報酬とか言って呼び出せばカタイにゃね。で、揃ったスクロールを」


「魔道具店に持って行くと…… まさか、魔道具店も一枚かんでるとか? 鑑定費用が浮いて一石二鳥だし」


「そうにゃ、次はどこの魔道具店がバックについてるかを調べるが、ここまで来ると地元警察の仕事にゃぁね」


「ごくろうさん」


「にゃ、調査ちなみに曹長が被害者と揉めてたらしいって言ってたにゃ」


「言ってたな。数日前に食堂でって」


「くだらにゃい小銭稼ぎはヤメロってバレて止められてたらしい」


「そうだったのか」


「本人が言うにはにゃ。改心して、大人しく正攻法で稼ぐつもりでいたらしい。にゃがどこまで本当かわからんしにゃ。余罪も洗わなければにゃらんだろう。ま、犯した罪は罪にゃ、その点も含めポロ警察に引き継ぎだにゃぁ」


「まぁ、また1人犯罪者を逮捕できたんだ。お手柄じゃないか」


「ありがとにゃ。でも肝心の殺人事件が2件とも解決してにゃいからにゃー。しかも振り出しに戻ったときたぁ」


「そうだな。で、これからどうするんだ?」


「捜査の基本は現場100回! だから、ギルドに戻るにゃ。まぁでも。その前に飯だにゃ、昼飯遅くなっちまったにゃ」


「やっぱり食べて無かったか」


「んにゃ? お前もか?」


「あぁ」


「よし! じゃあこの時間にゃら早いとこにゃらパブが開いてるにゃね」


「では、腹ごしらえとしますか」


「それじゃあいきますか」


「ネコさんと一緒でもいいところで頼むな」


「ん? あー、あったかにゃあ?」

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