第1話 9/15
3人が4階の角部屋で事件についての話をしていると部屋の扉がノックされた。
ツウの「どうぞ」という返事と同時、扉が開かれた。
「隣の部屋の人、帰ってきたよ」と、中年の細身の男性が廊下に立ったまま言う。
「あ、事務局長さん。ご連絡ありがとうございます」
ツウの返事を言い切るのを待たず事務局長と呼ばれた男が言う。
「お、貴方がアインさん? えらい頭が切れるらしいですな」
「ど、どうも」
「そうか、ご紹介ができておりませんでしたね。事務局長さん、こちら助手のテオ・アインにゃ」
テオが誰に聞こえるともわからない声量で「助手…… 」とつぶやく。
「テオ、こちら迷宮管理組合の事務局長さん」
「初めまして。頭が切れるかはわかりませんが中尉とは幼年学校の同窓でして。たまに知恵を貸してます」
「よろしくどうも、飛び級でアカデミーに行った優秀な方やってね、中尉さんからはよく聞いてまっせ」
「優秀だなんて、たまたまです」
「そない謙遜せんでも。あ、曹長さんも先ほどはどーもね、助かりましたわぁ」
「いえこちらこそ」
「にゃにかしたのか?」
「中尉さんはじめ憲兵さんに渡す用のね、冒険者登録書の写しをね、作ってたんですわ。まぁまぁなページ数になったんでねぇ、綴じなあかんわぁ思うてる所、手伝いを買って出てくれてね。ほんでまぁその手際の早いことぉ、ほんま優秀な部下だけやのうて助手さんまで優秀なんて、中尉さん人には恵まれてるみたいやね。羨ましい限りですわ」
「いやー、優秀にゃ部下に支えられても、肝心な事件を解決できてませんから。にゃはは」
「まぁ、助手さんが来てくれたんなら解決も早いんでっしゃろ? 毎日、言うてましたやん」
「毎日? 毎日言ってましたかにゃ?」
「そらもう、期待してまっせアインさん。はよ事件解決してもらわな、いつまでも迷宮の閉鎖は一部とはいえ、してられませんからなぁ」
「は、はぁ頑張ります」
「にゃ、私とテオが来たからには安心してくださいにゃ」
「ほんま期待してますからね。あぁ、そうだ中尉さん、隣の部屋の冒険者には換金所に魔石とドロップアイテムのリストを提出の後、査定待ちの間、一度自室に来てくださいと伝えてますから」
「助かりますにゃぁ。いやー事務局長さんは仕事が早い、私も貴方の様な人の下で働きたかったですにゃ」
「ははは、そない言うてくれると嬉しいもんですな。ちなみにここの仕事は激務で有名でね、年中人募集してますから、いつでもウエルカムや」
「にゃはは、今回の事件が解決できなかったらお世話ににゃるかもですにゃ」
一同のはははと乾いた笑いが部屋に響いた。その時、廊下をはさんで向かいの部屋が開く。事務局長がその扉から出てきた人間に気が付き、「ああ!」とその人物に声を掛けた。
「曹長! 隣の部屋の冒険者の情報はあるか」
「はっ」
「こちらに」と言い差し出された資料をツウが確認する、横から曹長も覗き込んだ。
「魔法剣士とは珍しいにゃ」
「ポロの迷宮では珍しいですね。南の大森林とかなら引っ張りだこでしょうに」
「にゃに、旅費がなかったのかもしれんにゃ」
「かもしれませんね、ポロで少し蓄えてから南へという冒険者も少なくはありません」
「にゃににゃに、登録は半年前で…… 」
「駆け出しの冒険者で、魔法剣士。もし彼がエルフ耳ならもしかしたら…… 数日前に1階の食堂で被害者と揉めていた人物かもしれません」
「にゃんと、そんな情報をどこで?」
「中尉の到着の前にすこし、野次馬の中に被害者の身元を知る人物がおりまして、いろいろと伺っておりましたところ…… 」
などという会話があった横では廊下の事務局長と向かいの部屋から出てきた男が会話を始めた、部屋から出てきた男はハーフフッドかドワーフの血を引くらしく背が低い、事務局長に隠れて見づらかったが、ようやく見えた彼の容貌は身体の線も細くハーフフッドの血を引くものと推測された。暗い所で見れば子供と間違えるかもしれない、そんな男と事務局長は話しこんでいた。
「ああ! ソルさんやない、まいど。で、煙突の修理は順調?」
「どっかからの洗濯物が飛んできて煙の出口を半分塞いでましたよ」
身長の割に男の声色は低音が強調されていた。
「そないでっか!よかったわぁ、本格的な修理が必要か心配してましてん」
「この屋敷は造りがしっかりしてるからね。そうそう、修理ってほどのもんでもなかったから、お題は今日は結構だよ」
「また、そんなん言うて! 雪降ろしのシーズンも終わりやし、暫く実家もどるんやろ? お金いるんちゃいますのん?」
「バカンスみたいなもんですから」
「そうなん? まぁお土産代の前払いやと思うて、ちゃんと一階の事務の子に請求してや」
「わかりましたよ。お言葉に甘えて」
「では」と男が立ち去る。
見送る事務局長が「ちゃんとやでー」と念を押すように言った。
暫くしてギュッギュッと階段を人が降りる音が部屋まで届いた。
「事務局長さん。さきほどの人は?」
と、テオが問う。
「ソルさん言うてな、今の時期なら雪降ろし、雨期の前には屋根の修繕、夏が終われば煙突掃除、この街に何人かおる高所作業のスペシャリストやね」
「もしかして、最近もお願いしました?」
テオは天井を指さした。
「そやねん、今年最後の雪下ろしになるんちゃうかなぁ。まぁ、うち。ご覧の通り古い建物やろ? 融雪装置が着けられへんくてな、先週の雪が今シーズン最後の雪やと思うんやけどなぁ、屋根に積もってしまいましたやろ。雪下ろしお願いしましてん。でも、降ろしたおもったらまたうっすら。向かいの魔道具店さんなんかは母屋は融雪装置でまにあったみたいやけどね。さっき蔵とかはなれとかの細かいとこの雪おろしをソルさんにお願いしてはりましたわ」
「お忙しくされてるんですね」
「みたいですなぁ。この辺、迷宮の入り口と近いでっしゃろ、わてこの辺の出身ちゃうから解らんのやけどな、この街では屋根の作業するときに使う専用のブーツがあるんやけどな」
「らしいですね」
「お、知ってますか? まぁ、これが魔道具の一種らしくて、そいつが迷宮から漏れ出る魔素と反応して人によったら上手く使われへんのよ」
「へー、魔道具が、迷宮の影響で…… で、ソルさんは上手く使うんですか」
「せやねん! まぁ、魔素の漏れるんがキツイ日は流石に難しいみたいやけどね」
「へーそうなんですね、王都では雪おろしが必要なほど積もることもないですから、知らなかったですね」
「わてもよ。この地域独特の魔導具みたいで、こっち来て初めて知りましたわぁ」
「で、ちなみにそのブーツって、実物あるんですか?」
と言ったテオが事務局長越しに向かいの部屋を除き込んだ。
「それともさっきの人の個人所有?」
「いやいや、もしもの時は僕らが屋根に登らなあかんやろ、一家に1セットあるんがこの街の常識や、こっちの部屋から屋根裏に行けますんやけど、そこにありますわ」
その時、ギシギシという音がし始めた、何者かが階段が登ってきたようだった。
「この部屋は倉庫になってましてなぁ。この時期は夜までは鍵は開いてますから、時間あるとき見たらよろしい」
事務局長も階段を人が上がって来ることに気が付いたらしく廊下の先に目をやった。
「お?きたきた、さっき言うてたお隣のシューマさんやわ」
「あぁ、さっき迷宮から帰ってきたって言う」
「そやね。あ、ブーツは屋根裏入ってすぐ左ですわぁ、せっかくポロに来たんやから見て帰ったらよろしい」
「ありがとうございます」といったテオが部屋の中を向く。
「ツウ、例のひと来たってさ」
「お、きたにゃ。こちらに案内してくれ」
「隣の部屋を見るって言って無かったか?」
「予定が変わったにゃ。まずは話を聞く、被害者と揉めている所を目撃されてるにゃ」
いいながらツウが冒険者の登録用紙をひらひらさせた。
「ほな、よびましょか。シューマさんごめんやけどこっちの部屋きてくれるー?」
足音と共にカチャリカチャリと金属がこすれる音がした。
事務局長に案内された男が部屋に入ってくると言う。
「お呼びだとか?」
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