中編
当初はまあ、求婚者の誰かからだと思ったらしいのね、彼女も。
そりゃあカプス伯爵家とつながりを持ちたいところは多かったんですもの。
伯爵家ってのはなかなか微妙なところよね。
最も打算が生まれやすいところじゃないかしら。
侯爵ほどの縛りはなく、子爵よりは高い。
で、カプス家は羽振りはいいし、ちゃんと近年の投資やら何やらも見据えているし。
だから令嬢へもかなりの申し込みがあったのね。
美しくてたおやかだ、というのも無論あったけど。
まあそんな彼女だから、当初は誰か、と思っていた訳。
でも自分が常々通う店の、その上欲しいな、と思っていたものが毎度毎度送られてくるってちょっとそれ、って思うでしょ。
これがね、ちゃんと名前つきだったら良かったのよ。
それだけこの方は自分のことを調べて本気なのか、と思えるじゃない。
ところがギルバート氏はそうじゃなかった。
ともかく無記名なのよ。
ギルバート氏からすると純然たる好意なのね。
だけど自分は名乗る訳にはいかないから、無記名で贈る。
あと、「先日お贈りいたしました**はお気に召しましたか?」って手紙も後で届く訳。
それも差出人不明。
贈られた方からすると、もう何が目的なのか判らないじゃない。
それで彼女、だんだん怖くなって、気持ちが塞ぎがちになったのね。
さあそんな頃、イヴリン夫人が夫の引き出しから「出されない手紙」を大量に見つけちゃった訳。
当初は本当にたまたまだったらしいのね。
送り先不明で夫の私信が戻ってきた、っていうの。
ところがその中に入っていたのは、その宛先の人づてに出してもらうための手紙だったの。
しかもその内側の手紙には、封蝋もなければ、宛先も差出人名も無い。
さすがに夫人も怪しんで中身を見たのね。
すると中身は「先日お贈りした~」だったの。
イヴリン様びっくりして、慌てて夫君の引き出しを漁ったのね。
すると美しい箱の中に、何通も何通もラヴレターが入っているの。
封筒には入っているんだけど、封印はしていなかったから、彼女も内容がすぐにわかったわ。
ただ問題は相手だったの。
それで彼の私用の買い物の収支を執事と家政婦に問い正したのね。
すると確かに「誰か」に物を送っている訳。
で、執事も手紙の宛先は控えがある、ということで、戻ってきた手紙と同様のものの宛先を探したの。
そうしたらちょっと番地とかずれていただけで、今まで確かに同様の手紙が出されていたって訳。
そこで彼女、その「誰か」に護衛つきで会いに行った訳。
まあ結局は、ギルバート氏の学生時代の友人だったんだけどね。
このひとが少しお金に困っていたから、少しだけ援助する代わりに、この手紙に指定され宛先を書いて、架空の封印を押して出す役をしていたという訳。
でももうさすがに奥方に見つかってしまったのですみませんもう止めます、ということになったの。
で、このひとから宛先を聞き出したら、それがマーガレット嬢のところだったという訳。
さあそこから大変よ。
イヴリン夫人はカプス家へ行って、マーガレット嬢のお見舞いに出かけたの。
何せその頃既にマーガレット嬢が気鬱で引きこもっているという噂が社交界でも立っていたからね。
マーガレット嬢との不貞? と当初は疑いもしたの。
だけどマーガレット嬢自身はそんな状態。
だから夫人は夫が少し長く仕事で家を離れている時に、カプス家のご両親の元に出向いたの。
この時、夫の出されない手紙と、戻ってきた手紙、それに回収した架空の封印を持って出向いたの。
それを見たカプス伯爵夫妻はもう大騒ぎ。
令嬢が怖がっていた相手の手紙と同じ筆跡や封印を持ってこられたんじゃ。
そこでイヴリン様も夫が本当に全く! マーガレット嬢と接触していないということに気付いたのね。
そしてぞっとした、というのよ。
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