ちょっとそういう相手と結婚しようという気持ちは理解できないのよ。

江戸川ばた散歩

前編

 聞きました?

 ほら、何年か前に、気持ちを病んでしばらく郊外の別荘に静養にいらしたカプス伯爵令嬢マーガレット様のこと。

 何でも最近、ご結婚なさったそうで。

 ただその経緯がなかなかとんでもないものだったんだそうですのよ。

 そのお相手というのが、サンクド元伯爵ギルバート氏。

 そう、やっぱり数年前に何やらいきなりその位から退いて…… というか退かされたのかしら。

 当時の奥様とも離婚なさって。

 で、今はまあ元伯爵、とは言ってますけど、どちらかというと飼い殺しみたいな感じになっている方なんですって。

 で、まあ私こういう性格でしょう? 

 ついついあちこちから色んな話聞き込んじゃったの。

 そしたらびっくりなことが判っちゃって。

 だからここだけの話ね。



 このギルバート氏とマーガレット嬢の年の差が十一あるのよ。

 まずこれが引っかかったのね。

 静養している彼女と、隠遁している彼がどうやってまた知り合ったのか、というのが気になった訳。

 だってそうじゃない。

 うら若き社交界に出たばかりで静養してしまったマーガレット嬢と、既にある程度の地位を築いていたのに突然隠居させられたギルバート氏がどうやって出会ったのか、って。

 やっぱりそこ引っかかるでしょう?

 ご両親の紹介?

 それは無いでしょう?

 私だったら、繊細で心を病んだ娘が居たら、そんな訳ありのひとに縁づけたいなんて思わないわよ。

 それに隠居させられた人って言ったら、政略結婚の相手にもならないじゃない。

 じゃあ何故?

 ときたら、これはもしかしたら本気でただの恋愛ではないかと思った訳。

 でもマーガレット嬢は彼といつ出会えるというの? 

 どうやって愛を育んだって言うの?


 なので、マーガレット嬢の方の噂を聞いたの。

 メイド経由でね。

 そうしたらね、何でもマーガレット嬢、もの凄く頻繁に誰かと文通なさっていたそうよ。

 ただね、その情報をもたらしたメイドが言うには、マーガレット嬢が静養しだしてからきっかり一年後だというのね。


 さてここでギルバート氏の方に話が移るんだけど。

 このひとがその時点で何をしていたか、というと。

 これがまた、隠居のあと、マーガレット嬢同様、やっぱり郊外で軟禁状態だったんですって。

 この時期が重なるのよ。

 静養しだした時期と、軟禁された時期と。

 そしてこの軟禁された時期と、ギルバート氏が先の奥方と離婚した――そう、既婚者だったのよ、彼は。

 この時八つのお嬢さんと五歳の坊ちゃんも居たのよ。

 こちらは政略結婚だったの。

 だけどやはり伯爵令嬢だったイヴリン夫人との間は穏やかで、皆安心していたということなのね。

 これが唐突に離婚となったから皆驚きよ。

 で、この離婚と隠居の理由が驚きだったわ。


 ギルバート氏は、どうも社交界にデビューしたばかりのマーガレット嬢に一目惚れして、それから何年も「ただ観察して」いたの。


 まあね、家同士の結婚ばかりの私達だから、真の愛は~とか言うのはまあ判らないでもないわよ。

 ただ、彼の場合、もともと凝り性だったのね。

 それで何かと社交にかこつけて彼女を見ることができる範囲に行ける様にして。

 ほら、慈善活動とかにも彼女が参加しているものを調べ上げて、それにわざわざ加わったり。

 そうでなかったら、行きつけの店を調べ上げて、彼女が居ても居なくても贔屓にして、時々匿名で贈り物をするとか。

 ……怖いでしょ? 

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