リューナ嬢の失踪
@ruru_echika
今日の私
それは、明日のパーティに着る服を選ぶ様な。
紅茶に合うお菓子を選ぶような手軽さで、
罪の意識などまるで無い、いつも歩いている道にある日突然落とし穴が出来たかの様に自然で、疑いようの無いくらい日々の暮らしに溶け込んだ罠だった。
行く手を遮る物は何も無く、ただ歩く。
脚は軽い、裸足だ。服は綿のパジャマ。
髪はひとつに纏められていて、私の日々の穏やかな時間を過ごす時のいつもの格好だった。
私は今どちらに居るのだろう。
あちら?こちら?色は白く濁っていて判別が出来ない。
意識があると言う事はいつもの様に体は寝て居るのだろう。
いつもなら切り替わるチャンネルが、今日は待ち時間が長いなと不意に顔を上げた。
雲が晴れた様に、私はお嬢様から一人暮らしの女にころりと代わる。
目が覚めると白い天井。
二、三度瞬きをして起き上がる。
薄い緑色のカーテンは近所の家具屋さんでセールの物を買った、1200円で好みの物をゲット出来たのはとても嬉しかったし1年が経った今でもお気に入りだ。
さて今日はお仕事の日だ、リモコンを操作して部屋の電気を付けて、顔を洗うべく洗面所の電気を付ける。
8畳程の部屋に、キッチン広々、風呂トイレ別、独立洗面台に室内洗濯機置場アリの綺麗な部屋に引っ越して来て来月で丸々1年か……歯を磨きながら携帯を操作して昨日までに溜まった通知を確認して行く。
日々の他愛無いお話しや出来事等が携帯電話でチャット出来る様になったのはどれくらい前だっけ、私が高校生の時にはもうこのチャットツールは出来ていたかな。
朝ごはんの準備を始めながらテレビを付けて、朝の早過ぎる時間にギリギリやっているチャンネルを回して今朝のニュースを見る。
昨日の晩御飯の残りを温めたものをテーブルの上に出し、ちまちまつまみながら時間を浪費する。
意識が切り替わる前と後で暮らしが一変するのはいつもの事だけれど、不思議とこちらに居る時はこちらに本体があるので主軸が揺らがないのが不思議でならない。
私の周りにこれが理解出来る人が居るのなら私はその人と唯一無二の友人になれると断言出来るだろう。
私が夢の世界の人物と入れ替わりが出来ると気付いたのは、小学生の頃だった。
意識したのは幼稚園、毎日夢を見るなと思いはしたもののきっとみんな同じなんだと疑う事はしなかった。
日々夢の中で体験する不思議で素敵な出来事は非現実的なものからとてもリアルな物、実際に会った事のある人や全然知らない人が場所時間季節問わず夢に出て来るのだ。
その中で自分は、こちらの知歩なのか、あちらのリューナなのか、それとも他の誰かになっている。
なってと言うか、そうなのだ。
今の私は知歩としてこの地球に30年生きて来た記憶があるし、周りに居る知人などとも30年間の交流を経て今の付き合いをしている。
しかしひとたび眠りに付けば私はリューナになるし、他の誰かにもなる。
それらはひとつの夢であり夢の中のお話しで、みんな大人になるにつれて夢の世界から離れて行くものなのだ。
毎日見ていた夢をどんどんと見なくなって行く、覚えていないのが普通らしい。
だけれど私は寝れば必ず3つから8つの夢を見るし、その全てを覚えている。
何度目かの夢かも分かるし続きを見ることも出来たり、その夢の中で食事はもちろん戦う事だって出来てしまう。
色や五感なんかも普通に働いているから、私は言葉通り「夢の世界でもう一人の自分と入れ替わっている」のだ。
しかし、周りの人に話しても変な人扱いされるばかりで同じ様な体験をする人は未だ聞いた事が無い。
自分がイレギュラーなのだと理解して、今ではただ夢を見る事や入れ替わる事を楽しもうと決めた。
寝れば時間は過ぎて行くし歳も取る。
知歩として生きて行くのはリューナと違って大変で、1番年上の知歩の未来はまだ見えない。
だけれど毎日を楽しみながら生きていた。
ベランダを開け放ち、今日も青々と葉を広げている植物達に小さく声を掛けた。
「今日もよろしくね」
応える声は無いけれど、私は笑みを浮かべると水やりをするべくじょうろを手に取るのだった。
リューナ嬢の失踪 @ruru_echika
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。リューナ嬢の失踪の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます