第41話 10秒と15秒の通話
「……女?」
「ええ、女性の声でした」
ベリンが、これは重要な情報か、その女はひょっとしてシリアルキラーで、警察はFBIと連携してプロファイリングを行っているのかと聞いてきたのでジャンニは電話を切った。
「マヤじゃないか?」
「いや、本人が違うと言ってる。あそこの呼び鈴は壊れてるそうだ。押したのはそれを知らなかった人間だ。ますます気に食わないよ。犯人でもないのに、どうして郵便配達員のふりをして建物に入らなけりゃならない?」
セバスティアーノがやってきた。携帯電話の通話履歴の一覧表を振っている。
「通話履歴にある電話番号が全部特定できました。被害者と最も多く通話しているのはマヤ・フリゾーニです」
「あたしたち付き合ってたの、って仲だから、そんなもんだろうな」
「次にミルコ・ロッシ。催促のために電話したっていう本人の話と一致します。それからアンドレア・コスタ、イヴァン・クリスティ、ニコラス・ロマーノ」
「大学の関係者だな。コスタとクリスティは同僚で、ニコラスは指導してた学生だ」
「残る1名が1カ月間に7回かけています。不在着信が2回で、残りの5回のうち2回はそれぞれ15秒間と10秒間」
通話時間がやけに短いのは妙に思えた。
「10秒や15秒の通話? コスタ教授が言ってた不審な電話の相手かもしれない。名前は?」
「マリオ・セガレッティ。市内の配管工事会社に勤める30歳の男です。こいつは恐喝の前科がありますよ」
正面と横を向いた顔写真が貼ってあった。レンツォはその顔をすぐに見分けたようだ。
「ジャンニ、逮捕写真を見てみろ。あの男だよ」
「あの男って? おれはお前さんみたいに人相を覚えるのが得意なわけじゃないんだぞ」
しかし、確かに見覚えのある顔だった。白いソファとリビングルームが脳裏に浮かんだ。玄関にいる素っ裸の女。大学教授の離婚した妻、ヴェロニカ・プッチだ。帰ろうとしたときに愛人らしき男がやってきたっけ……
記憶にあるその男の顔と、威嚇するような目でカメラを睨む逮捕写真の顔が重なった。
「分かった! あいつだ、そうだろ? もと大学教授夫人と昼下がりの情事にいそしむ配管工」
「前のときは勤め先を解雇されたのを根に持ち、元上司から金を脅し取ろうとしました。ついでに言うと、弟のルイージも共犯で逮捕されている」
「それでわかったよ。ディ・カプアへの電話も脅迫だったんだ。身分証明書の偽造に関わっていることをヴェロニカから聞いて、金を要求したんだな。で、ぶっ殺しちまったと」
「けど、どうして殺すんだ? 殺したら金を脅し取れないだろ?」
「これこれ、そこで水をさすんじゃない。口論に発展したのかもしれないだろうが。両者のあいだにはヴェロニカもいた。でかいおっぱいを巡る男の話し合いがエスカレートした可能性があると最初に言ったのは、レンツォ、お前さんじゃなかったかい。カッとなって元夫をぶん殴るに至ったって」
「おっぱいとは言わな……」
そこで顔を見合わせた。
「ひょっとして、郵便配達の振りをして入った女は……」
「ヴェロニカだったのかな?」
ジャンニは注目を集める要領で手を叩いた。
「よし、マリオ君にお越し願え。教授の元女房もだ。すっぽんぽんで来たいと仰せの場合は、ご意向を尊重してさしあげるんだぞ。くれぐれも服を着るよう指示したりしないように」
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