第33話 それが警部の流儀

 ミケランジェロはスマートフォンの画面を見つめていたが、ジャンニが車のドアを開けると急いでポケットにしまった。ジャンニは座席に尻を滑り込ませた。


「小耳に挟んだところによると、警察にいることを親父さんに反対されてるんだって?」

「ええ」

「一度、きちんと話してみたらどうかな。お前さんが警察で自分のやりたい仕事をやってると分かれば、理解してくれるんじゃないかな」

「ぼくは自分のしたいようにするだけです。今までそうしてきたし、理解は求めてません。話というのはそれですか?」

「実はな、お前さんがここにいるのは明日までだそうだ」


 ミケランジェロは出そうとしていた車を止めた。驚いたような顔だ。


「それは……どういうことなんです?」

「言った通りだ。すまなかったな、伝えるのが遅くなっちまって。うちにいてもらうのは今週限りだ。来週からは今までの部署に戻ってもらうと聞いたよ」

「ぼくは聞いてません。意味が分からない。誰の決定ですか? 警部が決めたんですか?」

「決めたのは上だ。おれごときじゃどうしようもなくてね」

「自分は、少なくとも2年はここで働くと思ってました。違うんですか? なら、どうしてこっちに移るよう言われたんですか?」


 それには父親が絡んでいることを話そうかと思ったが、やめておいた。ミケランジェロは自分の能力が認められて機動捜査部スクアドラ・モービレに抜擢されたと思っている。実際はそうではないのだが。


「転属は取り消しになった。お前さんはよくやってくれてる。けど、メンバーがあと2名入ってくることになってね。お前さんにも残ってもらいたいが、人件費の都合で無理だそうだ。ラプッチの日頃の行いが悪すぎて予算をまわしてもらえないから」

「今やめたら、まわりの人に1週間で音を上げたと思われてしまいます」

「まわりにはおれから説明する。また今までの部署でチャンスを待てばいい。まだ若いし、頑張りを認められて戻ってこられる可能性はじゅうぶんあるよ」


 それが望み薄なのは分かっていた。ミケランジェロはこれまで辺鄙な街の警察分署コミッサリアートにいた。警察内でも退屈さで名高い、役所と書類のやりとりをするだけの部署だ。そこに戻されるとなると、功績を挙げて犯罪捜査関連の部署に復帰するのは難しい。


「納得できません」


 後ろからクラクションを鳴らされた。ミケランジェロは車を再び発進させようとし、失敗した。気が動転しているらしかった。


「気持ちは分かるよ。考えたんだが、別に戻らなくてもいいと思うんだ。ここの中央警察署クエストゥーラで人手が足りない部署があるかどうか聞いてみよう。お前さんの希望に合うところが見つかるかもしれない」


 ジャンニの声は尻すぼみになった。それでは何の解決にもならない。この坊やは殺人事件の捜査をやりたいのだ。だったら、やらせてやりたかった。それがジャンニ・モレッリ警部の流儀だから。

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