第97話 交通規制区域②
「知ってます。自動ゲートがあって、通過する車のナンバーを読み取るんです。登録されていない車は罰金をとられる」
「そう。おれみたいな間抜けがおんぼろ車で旧市街の景観をぶち壊さないよう、見張ってやがるんだよ。てことはだな、フラヴィアのルノーもだ。規制エリアの外に住んでるからアクセス許可はないだろう。もし引っかかってれば行方がつかめるんじゃないか?」
「ゲートの位置は標識で分かる。観光客じゃないんだから、普段運転してるなら見落とさないよ」
レンツォが言った。ジャンニのようにぼんやりしてたならともかく、と付け加えたそうに見えた。
「ごもっとも。けど、問題はクリスティが運転していたかどうかだ。やつはエリアの内側に住んでる。自分の車じゃないのを忘れて、うっかり侵入したかもしれない。普通の精神状態じゃなかったよ。彼女を殺して、頭はこれからどうするかでいっぱいだ。標識を見逃した可能性はある」
「車が検知されていたとしても、ドライバーが誰かだったかまでは証明できない」
「運転していたのはあいつだよ、間違いない。ものは試しだ。フラヴィアの車を乗りまわした目的は捜査の攪乱じゃないかと思うんだが、くそ検知器が嗅ぎつけてないかどうか知りたい」
レンツォが市警に電話で問い合わせた。土曜日で担当者が休みなので、あちこちの部署にまわされた。ジャンニは苛立ってその場をうろうろした。
乏しい可能性にしがみついているのは分かっていた。捜している車がたまたま検知器の前を通ったなんて都合のいいことは起こらないだろう。機械がとらえたとしても、その後どこへ行ったかは別の問題だ。システムは入る車をリストと照合するが、出る車は無視する。
電話は事情の分かる誰かにつながったようだった。
「対象車は昨日、
「ほんとか?」
「ネルリ広場のゲートを通ってる」
ネルリ広場は公園の近くにある小さな区画だった。規制区域を示す標識が道に設置され、カメラと電光掲示板が睨みをきかせている。
「よし、やった! 時間は?」
「夕方の20時17分」
フラヴィアが殺害されたのは20時だ。
「それじゃ早すぎる。死体発見場所から一番近い駐車場まで歩いて10分だぞ。フラヴィアの下宿へ行って彼女の車に乗り換えたとすると、7分でその広場には行けないよ。ほんとにルノーだろうな? 機械の誤作動じゃないか? おれが道を間違えるときはきっちり作動してるくせに、昨日に限って壊れてましたなんて言わせないぞ」
「車輌登録情報で問い合わせたから間違いないよ。車は確かにその時間に検知器の前を通ったんだ」
ふと思いついて聞いてみた。
「クリスティの車はどうだ? 昨日、ゲートを通ったか?」
再び問い合わせ、レンツォは回答を聞いて首を横に振った。
「彼の車は昨日の夕方から今日にかけては出入りしてない」
妙だった。主張どおりに自宅と公園を行き来したなら、痕跡が残っていなければおかしい。
ラウラが端末に表示した市街図を指さした。
「ネルリ広場ですが、公園からは車で10分程度です。彼がルノーに乗っていたなら、その時間にここ通るのは自然なんですが……。もしかすると、車は最初からルノーで、チンクエチェントは使われてなかったんじゃないでしょうか」
「それなら、なぜ乗り換えたかの問題は解決する。乗り換えてないんだよ。自分の車じゃなく、彼女の車に同乗して公園に行ったんだ。嘘をついたのは、ルノーをそのあとどうしたか言いたくないからだ」
ミケランジェロは当惑した顔だった。
「だとすると、マヤの行方が分からない件はどうなるんでしょうか? よく分からなくなってきました」
ジャンニは机の角に腰掛け、その場の全員を見渡した。
「よし、整理してみよう。おれの考えを言ってみるから、意見があったら聞かせてくれ。いつでも遮っていいから。おれは知ってのとおり頭脳明晰ってわけじゃないんで、どっかに穴があるだろうからな」
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