第77話 葉っぱを隠すには森の中
フェンスの前に警察車両が並んでいた。ひっくり返ったソファや自転車の残骸に埋もれながら、捜査員らがゴミ袋の捜索にあたっている。不法投棄されたガラクタは2日前よりも増えているように見えた。
ジャンニは車の運転席で煙草を吸った。
フランコ・ディ・カプアは偽造身分証明書のブローカーであることを配管工に知られ、警察に垂れ込まれたくなければ金を払えと脅されていた。配管工によれば、ディ・カプアは脅迫に応じるそぶりを見せていたが、その矢先に殺され、死体はマヤ・フリゾーニに発見された。
被疑者として最初に浮上したのは大学院生のニコラス・ロマーノだった。研究発表会のあと行方をくらませたことから疑いが向いたのだ。荷物からは殺害に使われた鈍器が見つかった。しかし付着している指紋は彼とは一致しなかった。
教授を殺害する動機のあった人物は浮上していない。顧客のひとり、ミルコ・ロッシは血のついたジョギングシューズを所持していたので被疑者として返り咲いたが、本人は捨ててあったものだと主張した。捨てたのは男で、車で立ち去ったらしい。
不明な点はまだあった。
犯行直後と思われる時間帯、郵便配達を装って建物に入った女は誰だったのか。
フラヴィア・リッチがバスで現場付近を通り、その後死んだことは何か関係があるのか。
彼女と教授の両方と接点があるマヤが姿を消していることは何を意味するのか。
敷地はざっと1万平方メートルあり、一部は廃材置き場になっている。長居は無用だった。変なところをつついて死体が出てきたりしたら目も当てられない。どのへんで見つけたのかを聞いておけばよかった、とジャンニは思った。どうしておれはいつも肝心な点を忘れるんだ?
「ミルコによれば、ゴミ袋はフェンス越しに投げ込まれたらしい。てことは歩道からそんなに離れてないはずだ」
敷地を見回した。アパートは廃墟の隣にあり、ちょうどジャンニのいる場所から部屋の窓が見えた。
「あそこから見たってことは、中庭や死角になる部分は除外していい。誰かが拾ってゴミ箱に入れたかもしれないから見てみろ。レンツォ、お前さん、ついてるな。おれがゴミ漁りしたいと思ったときに二度も近くにいるなんて」
並んでいるゴミ容器は、古いタイプの開閉可能なコンテナだった。レンツォがよじ登って袋を1個ずつ取り出すあいだ、他の捜査員が蓋を押し上げて支えてやった。
「生ゴミのほうも忘れるでないぞ」
河原を捜索しているチームから連絡はない。フラヴィアが死体で見つかるまでの行動もつかめないままだ。聞き込みが行われたが、彼女と会う予定があった友人は誰もいなかった。いったい、夜は危険なあの公園にどうして出かけたのか……
遠くで声があがった。警官が手を振っている。膨らんだゴミ袋がフェンスの下に転がっていた。透けて見える中身は、どうやら束になった子供用の古着だ。
「これじゃないな。捜してるゴミ袋には返り血を浴びた衣類とリュックサックが入ってるはずなんだ。いいか、他のよけいなものは掘り出すんじゃないぞ。ドラッグの売人かなんかの死体が出てきたら、きちんと埋め戻しとけ」
「警部!」
今度は別の方から呼ばれた。
生い茂る草の陰に、薄いブルーのゴミ袋。側面に穴がある。袋を破いたというミルコの証言と一致する。
ジャンニは外から中身を検めた。シャツとスラックスが無造作に突っ込んであった。折り畳まれたジャケットらしき衣類も見える。手袋をした手で中をさぐった。くしゃくしゃになったハンカチ。血がついている。一番下に黒いリュックサックがあった。
トロフィーに付着していたナイロンの繊維は黒だ。
「科学捜査課に連絡してくれ」
「なんでこんな中途半端な捨て方をしたのかな。簡単に発見されそうなのに」
「そりゃ、ここは不法投棄されたゴミだらけだからな。うまくいけば、ミルコみたいなしみったれが持ち去ってくれるし」
ジャンニは立ち上がって膝から土を払った。
「自分に嫌疑がかかったら警察がゴミ箱を調べるかもしれないから、わざわざ遠くに捨てにきたんじゃないかな。どうせ拭けるところの指紋は拭いてあるし、捨てるときは手袋をしてただろう。ますますこいつが気に入らないよ」
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