第76話 おれは機嫌が悪いんだ②

「ふざけちゃいない」

 ミルコが言う。

「脳筋のポリ公どもがちゃんと聞いてくれれば話したよ。このジョギングシューズは捨てられてたゴミ袋に入ってたんだ。拾ったんだから、盗みじゃない。無実の人間に罪をなすりつけようったってそうはいかないからな」


「ほう、警察がその気になったらどんだけ汚い真似ができるかご存知ない。違うね、拾ったなんて嘘っぱちだ。あんたはフランコ先生の家に行ったんだよ、偽の身分証を受け取りに。そして思った。先生が死ねば、残金の250ユーロは払わなくてよくなる。そこで殺害し、家中を捜したが、封筒にまとめて保管してあったブツは見つけられなかった」


 ミルコは鼻で笑った。


「おれなら肝心のブツを受け取ってからあんたの言ってることを実行するね。何度も言っただろ、殺しはやってない。家にも行ってない」

「ゴミ袋に入ってたのは靴だけか?」

「いや……他にもいろいろ。服とか、リュックとか」

「リュックの色は?」

「黒っぽかった」

「そのリュックを触ったか?」

「そりゃ、中に手を突っ込んだからな」

「ゴミが不法投棄されるのを見たら、いつも飛びついて漁るのか?」

「そういうわけじゃないけど、よさげな品はすぐ誰かに持って行かれちまう。いちおう見とこうと思って」

「ちょっと待ってろ」


 ジャンニは廊下に出てレンツォに電話した。彼にはさらなる物的証拠を求めて対象家屋を捜索するよう命じてあった。


「どんなもんだ?」


 クローゼットからは違法薬物らしきものしか出てこないとのことだった。辟易した声だ。


「この家、汚すぎるんだよ。空き瓶がそこらじゅうに転がってる」

「なら、捜索中に小便したくなっても困らないだろうが。家の中はあとにして隣の廃墟の庭を調べろ。やつは靴がゴミと一緒に捨てられてたと言ってる」


 ジャンニは電話を切ってデスクに戻った。


「見つけたときの状況を詳しく話してもらおうか」

「夜の1時頃だったかな。たまたま窓から下の通りを見てたら、男がポリ袋をフェンス越しに投げ込むところが見えたんだ。そいつが立ち去るのを待って下まで降りて、袋を破いて中を見たら、高そうなジョギングシューズが入ってたんだよ」

「男の風体は?」

「そう言われても……普通のやつだよ」

「年齢とか服装だ、おれが聞いてるのは」

「20代か30代かな。もしかしたら40代か、50代かもしれない。服装は普通ってとこ」

「あんたは頭が2つある3メートルの巨人が歩いてきても普通のやつだったと言うんだろ」

「そいつは車だったんじゃないかと思う」

「どうしてだ?」

「車のドアが閉まる音が聞こえたんだよ」

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