第71話 鍵の行方

 新聞の切り抜きは、13歳の少年が起こした事件を報じる4年前の記事だった。


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 中学校の男子生徒が自宅のパソコンとプリンターで身分証明書を偽造し、国家治安警察隊カラビニエリに摘発された。

 少年は偽の身分証明書で18歳と偽り、年齢制限のあるダンスホールに入場しようとしていた。調べに対し「友達と遊びたかっただけ」と供述している……

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 現在では高校生になっている少年の自宅に捜査車両が向かった。高校生は同行に応じ、再び偽造を行っていたことを認めた。警察が来ることは予期していたらしい。インターネット上で「本物そっくりの偽物を作る」と謳い、複数人から受注していたが、その顧客のなかにフランコ・ディ・カプアがいた。


「まさか17歳とは……20年前ならありえない話だよ。これもデジタル時代の犯罪というものだろうね」


 高校生が制服警官に連れて行かれると、ラプッチが呆れたように新聞の切り抜きを眺めた。ジャンニはソファから立ち上がった。横で取り調べを聞いていたのだ。


「その記事は科学捜査課の主任も言ってたやつなんだよ。過去に13歳の少年が偽造身分証でダンスホールに入ろうとして見つかった例があるって話をしてたんだ。子供でも家のプリンターで作れるって。あの坊やをもっと早く洗ってみりゃよかったよ」


 殺された大学教授のことは、少年はニュースを見るまでハンドルネームでしか知らなかったと言い、殺人への関与は否定した。


〈フローレンス〉の事件を解決に導いたことは久々の快挙だった。モロッコ人の兄弟は時計屋強盗に関わった仲間の名前も挙げたので、芋づる式の検挙が期待されている。ケイシーは退院し、店に押し入った強盗がハンバーガー・ショップの袋で殴られた話を聞いて笑い転げた。

 しかし、兄弟は「シンデレラ」と呼ばれる指名手配犯については首を傾げた。そんな名前は聞いたことがないと言い、手配写真を見ても戸惑いの表情を浮かべるばかり。

 ラプッチは特別捜査班の立ち上げを提案しているが、検察官オリエッタ・デ・アンジェリスは難色を示している。情報は不確かであり、まだ捜査に乗り出す段階ではないという見方だ。


 事情聴取から解放されたラヤンには別の仕事が待っていた。セバスティアーノは少年を隣に座らせ、前科者の顔写真を見せた。昨夜、公園で見かけた男がその中にいるかどうかを知るためだ。


「違法薬物取引の前科者を中心に見てもらいましたが、成果なしです」


 ラヤンは協力的だったが、ディスプレイに表示される大量の凶悪そうな人相は彼を混乱させただけだったらしい。どれも同じ顔に見えてきたと言った。


 ジャンニはデスクに両足を乗せて書類で紙飛行機を折っていた。


「ラヤン坊やがおっさんを見た場所ってのは、ちょうどフラヴィアのハンドバッグが落ちていた植え込みのあたりだと思うんだ。犯人じゃなかったとしても、そいつはきっと何か目撃してる」

「被害者は鍵を持ってたと思いますか?」

「鍵?」

「家の鍵です。ハンドバッグには入っていなかった。衣類のポケットからも、付近からも発見されていない」

「持ち去られたのかもしれない。今夜から下宿の前に監視の車をつけよう。玄関に近づくやつは片っ端から質問して、挙動が不審だったり文句を言ったりしたら連行だ。車は? フラヴィアは車を持ってたっけ?」  

「白のルノー・クリオ」


 ジャンニは内線で通信指令室を呼び出し、車が盗まれていないかどうか確かめたいと言った。付近にいるパトロールカーがフラヴィア・リッチの下宿へ確認に向かうことになった。


「キーを家の鍵と一緒にしてた可能性があるだろう? もしそうなら、それも犯人の野郎が持ってるってことだ」


 そして紙飛行機をごみ箱に向けて飛ばした。


「あの配管工はどうなったかな? ストリップの女王がいただろ、ヴェロニカ・ムチムチとかいう」

「ヴェロニカ・プッチ?」

「そうそう、その愛人で配管工のルイージだ。検察官事務所で事情聴取を受けることになってたはずだ」

「配管工はマリオです」


 昨夜、ジャンニは機動捜査部モービレを抜けるとか何とか言っていたらしいが、幸いにも忘れてくれたように見える。アンナ・メルカード警部から聞いて心配していたのだ。


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