第55話 死体が増えるばかり
フラヴィアが公園で何をしていたのか、クリスティは知らなかった。彼女とはドイツに留学していたときにインターネットで知り合ったという。フラヴィアは地元の高校を出たあとバールやレストランで働き、溜めた金でフィレンツェへ来て美術を学んでいた。真面目な子で、殺される理由はまったく思いつかない、云々。
検死医によれば、首を絞めたのは丈夫な細い紐だった。遺留品のショルダーバッグについている革のストラップがそれに使われた可能性があるので、バッグは遺体と共に安置所に運ばれた。
情報収集に携わっていた捜査員が署に引き上げてきた。誰もが顔に疲労を浮かべ、足取りは重い。無理もなかった。昼夜を問わず働いているのに結果は出ず、それどころか死体が増えるばかり。
レンツォは歩きまわりながら電話で言い争いをしていた。相手は別れたと言っていた彼女で、その彼女は今、他の男といっしょにいるらしい。
ジャンニは彼にナポリの警察署と連絡をとるよう言いつけた。
「フラヴィアのおっかさんは今の時間は働いてるそうだから、留守電に気づかない可能性がある。向こうから勤務先に人をやって直接伝えるよう頼んでもらいたい。娘の死をラジオやテレビのニュースで知ってもらっちゃ困る。それが終わったら今度こそ店じまいだ。各自、今夜はよく休むように。ラプッチが強盗の人質になって頭に銃を突きつけられてるって通報が入っても出てこなくてよろしい」
液晶テレビでは古書店の防犯カメラの映像がまだ流れていた。ジャンニはリモコンを向けて電源を落とそうとした。受付係のアントニーノが映像を見て「あっ」と言った。
「カップルがイチャイチャしてる」
「お前さん、小学生か? くだらないことで騒ぐんじゃない、こっちはへとへとなんだから」
「こいつら、凄えな。もしかしたら、ここでやりはじめるんじゃないか?」
「すれっからしの娼婦と客だろ、どうせ」
「18歳くらいかな。金髪で、脚が長くて、メロンみたいな胸だ」
「どれどれ」
店の前を映した映像の中で、ひと組の男女が抱き合っていた。抱き合っているというのはかなり控えめな表現で、より正確には互いの微妙な部分に手を差し入れ、もぞもぞ動いていた。どちらもティーンエイジャーだ。少女が体の向きを変え、金網のシャッターに豊かな胸を押し付けた。
「おおっ!」
画面上の時刻は22時過ぎ。ジャンニが停止するのを忘れて署を出たせいで映像が進み、夜になっている。ジャンニはアントニーノと並んでソファに腰かけ、画質の粗い映像に見入った。
「北欧系かな?」
「ああ、ドイツとか、そっちのほうだ。くそ、古本屋のやつ、どうしてビデオテープを新しいのに替えておかなかったんだ?」
突然、カップルはお互いから体を離した。後ろに路線バスが停車したからだった。明るい車内から客が降りはじめ、少年と少女は早足で画面の外へ姿を消した。
ジャンニは自分が思ったより疲れていると感じた。ここに座ってホットドッグにかぶりついたのが遥か昔に思える。
「このビデオはおれの机に置いといてくれ。間違ってもそのおんぼろデッキといっしょに捨てたりするなよ、いちおう捜査に関連するものなんだから」
ドアに向かおうとして、はたと立ち止まった。
待てよ、バス?
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