第37話 肥溜めにも一粒のきらめき
ラプッチは代議士が麻薬売買に関与したという疑いに基づき、捜査令状を申請する事態に至ったことを検事に電話で説明していた。
「……いえ、友人ではありません。面識がある程度で……ええ、品性下劣な悪党でして、いつかこんな過ちを犯すのでないかと懸念はしていたのですが……」
科学捜査課から報告書が送られてきた。ニコラス・ロマーノの衣服に付着した血痕は、被害者とは一致しなかった。包丁で指を切ったという本人の話が裏付けられたわけだ。
ジャンニは分析結果の紙をくしゃくしゃにして放った。一日の大半を警察署で過ごしているような気がする。かといって、家に帰っても待っているのは交通違反の罰金の紙と汚れた洗濯物、3日前に買って冷蔵庫の中で固くなっているピザだけである。
コスタ教授が携帯電話に連絡をよこした。大学で会えなかったので、事務に連絡先を残しておいたおかげだった。聞きたかったことを質問し、ジャンニが礼を述べて通話を終わらせようとすると、コスタは言った。
「あの、ディ・カプアの家に入ることは可能でしょうか」
「そりゃ、どういう理由で?」
「捜しているUSBメモリーを彼が自宅に持ち帰っていたかもしれないと思いまして。中に入って捜す許可をいただけないかと……」
「いや、教授の家は殺人現場なんで、まだ立ち入り禁止です。そうだな、こっちの調べが片付いたら家族に了承をとって入ってください」
片付くのは数週間か数カ月先、いや、ひょっとすると片付かないかもしれないが。電話を切ったところでレンツォがやってきた。
「マヤが1階の受付に来てるって」
「さっきは行き違いだったし、ちょうどいい。こっちへよこしてくれ。肥溜めにも一粒のきらめきってことわざを知ってるかい?」
「知らない」
「だよな、おれが今考えたんだから。うんこの山みたいな一日でも、ひとつくらいはいいことがあるって意味だ。なかなかのセンスだろ……おい、そこで溜め息なんかつくなよ」
ジャンニはディ・カプアの部屋で見つけた学会の会報を見せた。
「いいことってのは、これのことだ。被害者がもらったトロフィーが写ってる。マヤも言ってたよ、共同の研究プロジェクトが受賞したって」
「ふうん」
「コスタ教授によれば、トロフィーは杉の木をかたどったものだそうだ。杉の木は力強さや知恵、なんたらかんたらを表し、学問の象徴である、とかなんとか解説をはじめたところを遮って、これが今どこにあるかを聞いてみた。授賞式のあと、ディ・カプアは家に持ち帰ったらしい」
「これは家の中にあったのか?」
「現場写真を見てみろ。キッチンの戸棚に隙間があるだろ? おれが思うに、トロフィーはあそこに飾ってあったんだよ。それが今はなくなってる。青銅製だそうだ。科学捜査課は凶器が青銅製の鈍器だと言ってる」
「これが凶器の可能性があるってこと?」
「可能性なんてものじゃない。間違いないよ。犯人の野郎はこれで教授の頭を殴ったんだ」
「被害者に襲われて、身を守るために手に取ったということは考えられるかな?」
ジャンニは丸めた冊子で顎を叩きながら考えた。
「傷は後頭部だった。取っ組みあってたわけじゃない。後ろを向いたところを殴ったんだよ。問題はそれがどこに持ち去られたかだ。今日は何曜日だっけ?」
「金曜日」
「よし、お前さんにゴミ漁りの任務を授けてしんぜよう。現場周辺のゴミ容器に血と指紋がたっぷりついたトロフィーが入ってないかどうか見てきてくれ。3日前だからもう収集されたかもしれないけど、確認するに越したことはない」
「アパートの前のコンテナなら、最初に調べたよ。何も見つからなかった」
「じゃ、もう1回見てこい。おれたちが引き上げたあとで捨てられた可能性もあるだろうが。彼女と別れたんだから暇だろ? やることを与えてやろうと言ってるんだよ。さあ、行った行った」
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